第16話 機械だって

「俺はトーク機能のことくらい、理解してる。そのつもりだよ。ロイドはロイドだ。あんたの言う通り、プログラムの成せる業だよ。でもどうしてそんなプログラムを組む? それは、リンツェロイドに心を持たせたいからじゃないのか?」


「それは、非常に面白い、ご意見です」


「だから。あんたは俺を特殊な考えの持ち主みたいに言うけど、そんなことないんだって。リンツェロイドは、たとえば恋なんかしないだろう。そういうプログラムを作られなければね。だから俺は、ブロウがちょっと〈リズ〉にのめり込みすぎかなと思ったときは、忠告した。でも」


「人は、リンツェロイドに恋をする。そうした事例は否定しませんよ。何も、フェティシストと呼ばれるような性癖の持ち主でなくともね」


「だよな。報われぬ恋、と思われがちだけど、俺は違うと思う」


「〈キャロル〉はあなたに応えますか? 応えるとしたらそれは――」


「プログラムだな。もっとも、彼女にそっち系の特殊オプションはつけてないけどね」


 にやっと笑ってステファンは言った。


「俺自身は、キャロルに惚れてるとは思ってない。でも俺はとてもこいつが大事だよ。『モノ』としてじゃなく、個体として、個性として」


「仰る通り、オーナーの多くはそうでしょうね」


「クリエイターだって同じだろ、とも言ったよな」


 ステファンは繰り返す。


「トールも言ったじゃないか。あんたは一体一体のロイドを大事にするって」


「しますよ、もちろん。それが愛情かと言われれば、一種の愛情になるでしょう」


 否定はしませんと店主は言った。


「ですがそれは、あくまでも人間側の話だ」


「そうなんだけどさ。『機械に愛情を抱く』ことに違和感や嫌悪感を覚える人種ならともかく、少なくとも俺たちはロイドが好きだろ? そうしたら、ロイドも俺たちを好いてくれてるんだ」


「何やら、仰ることが矛盾していませんか、ミスタ」


「してないよ。ううん、何て言ったらいいんだろう」


「――機械だって、注がれた愛情は理解できる」


 ぼそりと、トールが言った。


「たとえ、プログラムで理解するのだとしても。たとえ、データで判断するのだとしても。愛を返したいと、思う」


「そう!」


 ぱん、とステファンは手を叩いた。


「それだ」


 にっと笑って、彼はキャロルを見た。キャロルは彼女のマスターに笑みを返した。〈クレイフィザ〉のマスターは、黙っていた。トールは、店主を見ていた。


「通じた? 俺の言いたいこと」


「ええ」


 それから店主は、簡単に答えた。


「ミスタのお考えは、よく判りました」


「それって『賛同はしないけど』ってことか」


 ステファンは笑った。


「まあ、別にいいけどさ。――キャロル」


「はい、マスター」


「時間は?」


「あと三十二分、ございます」


「そう。でもそろそろ帰ろっか」


 彼は立ち上がった。


「今日は有難う。面白かったし、楽しかった」


「こちらこそ、当店を選んでくださり、誠に有難うございました」


 完全に営業用の笑みを浮かべて、店主も返した。


「明細、すぐできる?」


「今日のメンテナンス内容と請求書ですか? お急ぎなら、すぐに作りますが」


 トールが答えた。


「別に急がないけど。またくるから、できたら教えて」


「え?」


「アカシにソフトの相談したいし、キャロル用のステッパーも作ってもらいたいし」


「それじゃ……」


「うん。俺、しばらく〈キャロル〉をここに任せるからさ」


 ステファンはにっと笑った。


「あ、有難うござ」


「お言葉は非常に嬉しいのですが、ミスタ」


 片手を上げて、店主はトールの返事を遮った。


「当店は間もなく移転を予定しておりまして。常連のお客様には、近場の工房をご案内しているところなんです」


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