第7話 技術がないとは思えない

「製品はロイド・マスターの子供だなんて言うもんな。助手なら、妹でもいいんじゃないか? どっちかって言うと姪とかかもしんないけど」


 ステファンは特に不審に思わなかったようだった。――思わないだろう。


 トールはそっとライオットを睨んだ。ライオットは客に気づかれないように、声に出さずにごめんと言った。


「で、店主マスターは結局、こないのかな?」


「すみません。ついさっきまで新作の設計に根を詰めていたものですから……」


「あはは」


 ライオットが笑った。


「根を詰めてた人が、店頭で休憩中? ま、うちは暇だからねー、休めるよねー」


「新作か。なら、仕方ないな。俺は〈キャロル〉一体で充分だけど、新しいロイドを見たりするのは好きなんだ。カタログ更新したら、送ってくれる?」


「はい、そういたします」


 ほっとしてトールはうなずいた。ここで「マスターを出せ」とごねられたら困ると思ったのだ。


「ところでさ、ライオット。訊きたいことがあるんだけど」


「どうぞ」


 気軽に青年は言った。


「ここのマスターがトーキングロイド作らないのって、何で?」


「ん?」


 ライオットは目をしばたたいた。


「どういう意味?」


「そのままだよ。カタログで思い出したんだけど」


 技術がないとは思えないのに、どうして2どまりなのか。ステファンはまたそれを尋ねた。


「そんなの、注文次第じゃない?」


「『絶対、2がいい』なんて客もいないだろ、普通」


 トークレベルの希望は高いのが常だ、と彼は繰り返す。普通なら店側で売り込み、客はちょっと無理をしてももう一段階上げよう、と説得されることが多い、と。


「そうだなあ、じゃああれだ」


 ぱしん、とライオットは手を打ち合わせた。


「面倒臭い」


「……何だって?」


「レベル低い……もとい、高いの作るの、きっと面倒臭いんだよ、うちのマスター」


「やる気のない答えだなあ」


「ま、俺がそう思っただけ。マスターがどう思ってるかは、知らないよ」


 ライオットは言ったが、あまりフォローできている感じはなかった。トールは苦笑いを浮かべて聞いていた。


「質問はそれだけ?」


「ああ、まあ、とりあえず」


「じゃあ、アカシもそろそろ空いたんじゃないかな?」


 言いながらライオットは電源を切ったままの〈キャロル〉を抱き上げ、カートに移した。


「はい、行ってらっしゃい」


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