第18話 ただの事実
「……嘘、でしょう?」
「本当だ」
マスターは、笑ったままだった。
「ライオットは気づいている節があるね。アカシは気づいてない。君も、全く」
「嘘だ」
トールは呟いた。
「騙されませんよ、マスター。そんなの、たちの悪い、冗談、です」
「信じないの? それなら、それでもいいけど。いいや、どうでもいいけれどね。また、書き換えてしまうから」
「冗談……」
「本当だよ、トール。君はただの、リンツェロイドだもの。機械なんだ。心はないし、記憶もコマンドひとつで消されてしまう。それくらい、判っているんじゃないかな?」
「わ、判って、います。でも、マスターがそんなこと」
「どうして、私がしないと思うの? 君の学習機能は最大レベルなんだけれど、たまに、妙な方向に学習を進めるね」
くすっと彼は笑った。
「私は君たちに『マスター』と言わせて働かせている人間だよ。君たちは私の、操り人形なのに」
「わ……判ってます! そんなことは!」
トールは叫んだ。
「判ってます、僕は、そんなこと! でも僕は、あなたのプログラムの働いた結果であろうと、あなたのために、あなたの役に立つために、稼動してるんだ。一生懸命、やってるんです! なのにどうして」
彼は唇をかみしめた。
「どうしてそんなこと……言うんですか」」
データの変更。
マスターがクリエイターと同一人物であれば、そこには何の違法性もなければ、倫理上の問題も生じない。
そう、問題はない。〈クレイフィザ〉店主は彼のいつでも好きなように〈トール〉を、〈アカシ〉を、〈ライオット〉を改造してかまわない。
彼がそうしても、誰も咎めない。当のリンツェロイドたちも。それを知らなければ。いや、知っていたとしても、そういう習慣があれば、そういうものだと彼らは学習する。
しかしいま、店主は言ったのだ。
データは削除され、トールはそれを知らないのだと。
何故、そんなことを言う必要があるのか。
トールはそこを尋ねた。
糾弾した、と言ってもよかった。
「僕、ステファンに言いましたよね。ロイドだって、好かれていれば判りますって。プログラムによる理解でも、データによる判断でも。マスターは、僕のヴァージョンアップをしてくれませんけど、それは何も僕が嫌いだからじゃないって思ってました。でも、もしかしたら」
彼はうつむいた。
「マスターは、プログラム通りにしか動けない僕らが嫌いなんじゃないですか」
「……どうして、そんなことを?」
今度は店主がそう問うた。
「私が、君たちに心はないと言うから? 所詮、機械だと言うから? でもそれは、ただの事実だろう?」
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