第10話 程度の差はあれ

「――だいぶ遅くなりましたね」


 トールが時計を見れば、数字は夜の十時を示していた。


「あれ? もしかして俺、あんたらを残業させちゃった?」


「残業」


 アカシは口の端を上げた。


「いいや、俺たちには二十四時間もなければ、どうせ日がな一日、ここから出な」


「製作期になると、昼も夜も、時間は関係なくなりますもんね! アカシやライオットは泊まり込みも増えて、全く出られないこともありますし!」


 素早くトールは話に入り込んだ。


「へえ、年がら年中、暇って訳でもないんだ。まあ、当たり前か」


 やはりステファンは、気にしなかったようだった。やはりアカシも客に知られないように声を出さないで、「すまん」と言った。


店主マスターはどうしてんの。帰ったかな?」


 ステファンは適当な方角を眺めて尋ねた。


「いるはずですよ。店を閉めてから、続きをやると言っていましたから。呼びましょうか」


「設計中なんだろう。邪魔しないよ」


「いえ」


 トールは首を振った。


「お客様のみならず、〈キャロル〉にも会わせずにお引き取りいただいたなんて言ったら、叱られますから」


 さらりと言うトールに、アカシはにやりとし、ステファンも笑った。


「ロイド・マスターは、程度の差はあれ、みんなロイド・フェティシストだって言うけど。やっぱり〈クレイフィザ〉のマスターもそれ系か」


「フェチズムとは違うんでしょうけれどね、リンツェロイドが大好きなことは間違いないです」


 半ば、助手は認めた。


「ミスタ・スタンリー」


「ステファン、でいいよ」


「ではステファン、お時間はまだよろしいですか?」


「平気平気。ようやくここのマスターに会えるってんなら、日付を越したっていいさ」


「それはさすがに、巡回ロボットの警戒対象にもなりますし、今日中にはお帰りいただかないと」


 トールは苦笑し、そうだなとステファンも同意した。


「〈キャロル〉、俺にとっての最終シャトルの時刻、チェックしといて。ここ出る必要のある十分前に教えてくれ」


「はい、マスター」


 リンツェロイドはこくりとうなずいた。


「アカシ。ステファンと〈キャロル〉を応接室に。僕はマスターを呼んで、新しくコーヒーを淹れてきますから」


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