第20話「デート①」

 ハロルドの大声と、ミリアお姉様がそれを叱る声を聞いた私は、二人の元へと急いで駆けつける。


「どうしたのですかハロルド様!?」

「リアーナ! 俺との約束を忘れてるんじゃないかと思ったら、居ても立ってもいられなくてな! 来ちゃった!」


 来ちゃった! てっ、乙女じゃないんだから……。

 あぁでも、ちょっと可愛いって思っちゃう私も私か。


「もう、わざわざ押しかけて来なくても、ちゃんと覚えていますよ!」

「なら良かった! じゃあ行くぞ!」


「行くってどこに!?」

「ああ、俺の行きつけの店! そこの飯を一緒に食おうぜ!」


 どうしよう? 今からマグダット先生の特製シチューを食べる所だったのに。あ、でも……逆に良いタイミングだったかもしれない。


 だって、このままマグダット先生とミリアお姉様を、二人っきりに出来るもんね。


「分かりました! じゃあ、ミリアお姉様。後は二人でごゆっくり!」

「あっ、ちょっとリアーナ!?」


 困惑するミリアお姉様を置いて来てしまった。

 あの様子だと、進展するには時間がかかりそうね。


「それで、ハロルド様……これからどこに?」

「町の食堂だ! その店のオムレツが最高に美味くてな。リアーナに絶対食べさせようと思ってたんだ!」


「そ、それは嬉しいです!」

「ああっ! 剣の稽古はその後だな」


 町までお食事か。

 それって……デートじゃん!


 いやいや、ハロルドにそんなつもりはないんだから、落ち着け私。それより、気になるのは握ったままの手だ。


 マグダット先生のお家を出る時に引っ張られたまま、未だに離れない私とハロルドの手。どこで離すのかと思ってたけど、全然離す気配がない。


 多分、ハロルドは握ったままだと気づいてないんじゃないかな? 敢えて私から言うのも気が引ける。元より、このままずっと握っててくれないかな……。


「町までは俺の愛馬ゼフォンで行くぞ!」


 馬小屋までやって来た私達は、その中でも一際大きい黒馬に跨がり、町まで出かける事に。


「ほら、ちゃんと掴まってろよ」

「は、はいっっ」


 そこでようやく、繋がれていた手は離れたけど、今度はハロルドに抱きつかなきゃいけない。


 お腹まで手を回し、振り落とされようにしがみつく。

 服の上からでも腹筋が割れているのが分かり、ちょっとエロい……。


「見ろ、良い景色だろ」


 ハロルドは走る馬の速度を落とし、景色を眺める余裕をくれた。お城は小高い山の上にあるから、城下町を見下ろすように下っている。


 賑わう町。その先に見える農道と、のどかな農村。豊かな自然を眺めていると、心が穏やかになるのを感じる。


「素敵な眺めですね」

「だろ! 俺はこの眺めが大好きだ! この景色を汚そうとするなら、俺は死ぬまで戦う覚悟だ」


 凛とした横顔でグレイテストを眺めるハロルド。

 その表情に、私の胸が高鳴ってくる。


「きっとハロルド様なら護れます」

「ああ……勿論、リアーナも護るぞ!」


「え!? でも、自分の身を護れるように剣の稽古をするのでは?」

「それはあくまで護身のためだ。そうならないよう、俺が全力で護る! だが、もしもを考えるとな……」


「何があっても護ってくれますか?」

「当たり前だ! リアーナは……大切な家族だからな!」


 そこまで言ってくれると、凄く嬉しくてついニヤけちゃう。でも、我が儘を言えば、家族じゃなくて『大切な人』にして欲しかったな。


 いつ女の子だと気づいてくれるのやら。

 この際、ハロルドの前で全裸にでもなろうかな……。


「さあ、そろそろ着くぞ」


 城下町の入り口に着いた私達は、馬を門番の人に預け町へ繰り出した。


「ほら、はぐれたら困る」

「あ、はい……」


 何気なくハロルドから差し出された手を、思わず握ってしまった。いや、はぐれないよ? 普通男だと思ってる人と手を繋ぐ? もしかして女だと気づいてるの?


 なんだか良く分からない展開に、私の脳内は妄想と困惑でぐちゃぐちゃになっていた。


 あの~、マグダット先生の家から移動する時もそうだったけど、恥ずかしくて上を向けないんです!

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