第4話
「着いたぞ。いつまでしがみついてんだ?」
ハロルドにしがみついていたら、あっという間に着いたみたい。
「どこ?」
「ここか? 俺の家」
これが? うそうそっ、だってこれ……お城じゃない!?
「ああ、言い忘れてた。俺、王子なんだわ」
そんな大事な事「今日誕生日なんだわ」みたいな感じて軽く告げないでよ。
どうしようっ、魔国の王子様って事は……。
「魔王城?」
私がそう呟くと、ハロルドは眉間にしわを寄せていた。
「それは他国からの呼び名だろ。この城には『グレイテスト城』というれっきとした名前がある」
「ご、ごめんなさい……」
素直に謝ると、ハロルドは私の頭をくしゃくしゃにして笑ってくれた。
「間違いを素直に認められるのは偉い事だぞ? 俺の親父なんて、頑固で自分の非を認めねえ困った親父なんだ」
すっかり子供扱い。
しかも、未だに男の子だと思われてるし……。
そりゃあ、背も低いし胸も無いから女には見えないかもしれないけど、私だってれっきとした乙女なんだからっ……なんて思って自分で少し引いた。
「兎に角、リアーナの事情を聞くのは、その汚れた服を着替えて風呂に入ってからだな。少し匂うぞ?」
「うっ、分かった……」
匂うなんて言われたらどうも出来ないよ。
乙女心をなんだと思ってるのかしら!
ハロルドは乙女だとは思ってないけど……。
「なんだ、一緒に入りたいのか?」
「ち、違うっ!」
「はは、やっと元気そうな声が聞けたな」
なんだ冗談か……ビックリして心臓口から出すところだったじゃないっ。
「でも、私なんかがお城に入って良いんですか?」
「んな事気にするな。王子が客を連れてきただけだ。文句を言うやつはこの城には居ない」
それなら良いんだけど……ちょっと不安。
「やっと帰って来たのですか」
「ああ、セルジか。そうだ……今日は客を連れて来たぞ」
城の門から堂々と入った私達を待っていたのは、ハロルド付きの執事セルジさんだった。
「おやおや……これはまた変わった客人を」
「だろ? 拾ってきたんだ」
拾われました……。
「こいつは、リアーナだ。悪いが、替えの着替えと風呂に入れてやってくれ」
「すいません……」
ペコペコする私に、セルジさんは柔らかで穏やかな表情を見せながら着いてきなさいと言ってくれた。
「あの……本当にすいません」
「謝る事はありませんよ。きっと何か事情がおありになるんでしょう。それで、お嬢さんはどこの国から来たのですかな?」
セルジさんに着いて歩く途中、厳しい追及が待っていた。この人は、私が女だという事も別の国から来たのも見抜いていた。
「ガリアス共和国から……」
「ほう、最近険悪な国の一つですな」
「わ、私やっぱり帰りますっっ」
踵を返し逃げ出そうとするが、その場から一歩も動けない。後ろを見ると、セルジさんが私の首袖をがっちり掴んでいた。
「待ちなさい。折角ハロルド様がお客様をお連れしたんです。せめてもてなされてから帰っても遅くないでしょう」
「でも、私がガリアスの者だと知ったら……」
「ハロルド様は、そんな事で態度変える薄情な人ではありませんよ」
「でもっ、ハロルドさんは私を男の子だと思ってるんですよっっ」
一番伝えたかった重要な事だ。
「そ、それは、大変失礼な思いを……ハロルド様は少し天然な所がありましてっっ」
焦るセルジさん。
きっと思い当たる節が有りすぎて困っているのね。
「良いんです……どうせ私なんて女に見えないですから」
「そんな事はありませんよ! そ、そうだ! この城の侍女連中を集めて来ましょう!」
何をする気なのかしら……。
客室に通され一人お茶を啜りながら待っていると、扉の前からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。
バタンッと、勢い良く開く扉。
そこに現れたのは、ハロルドと同じ浅黒い肌の持ち主で、くりくりの可愛い目と、長いサラサラの黒い髪がとても美しい女性だった。
「弟が連れてきたのは貴女ね?」
「は、はいっ」
「まったく、こんな可愛らしいお嬢さんを男と間違えるとは……姉の私からも謝罪するわ」
「いえ、そんな滅相もないっ」
ハロルドのお姉様か……どうりで似ている訳だ。
「という訳であいつを……あっ、と言わせてやりましょう!」
「ど、どういう訳でしょうか!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます