第5話

「うわ、ぷっ」


 グレイテスト城の侍女さん達に、体をこねくり回される。バラの花が浮かんだ綺麗な筈のお風呂に、自分の垢が浮かんでいくのは凄く恥ずかしくて、上を向けなかった……。


「次は服ですねっ」


 侍女の中でもベテランさんであろう方が、私に合う服を次々に着せ替えていく。


「これは主張が強すぎるわね」

「ですね、これなんかどうでしょう」


「うん! これならあいつも顔真っ赤ね」

「では、次は髪ですね……」


 されるがままの私だけど、別に嫌ではなかった。

 正直言うと、嬉しかったりもする。


 だって、この人達は私に似合うかどうかで選んでくれてる。決して、自己満足ではない相手を思った行動だと思うから……。


「髪はベールでも被せちゃいましょう。あ、別に短くても可愛くない訳じゃないのよ?」


 気にしないようにフォローしてくれるハロルドのお姉様。お姉様の名前は"ミリア"さんと言い、凄く優しくて気さくな人だ。良い意味で、とても王女様とは思えない人柄だと感じた。


 そんなこんなで準備を終えた私達は、食事時の間へと足を運んだ。


 扉の前に立つと緊張感に襲われドキドキしてきた。

 ハロルドなんて言うかな……。


 頭には、ベールとキラキラとした宝石が散りばめられた冠を被り、下は青を基調としたドレス。無い胸を少し詰めたから、谷間だってあるもん!


『大丈夫!』と、何度も自分に言い聞かせながら、私を待つハロルドの元へ歩みを進めた。


「お待たせ~」

「遅い……風呂と着替えに何時間かける気だ。女じゃあるまいし」


「相変わらず煩いわね~」

「てか、なんで姉貴がいるんだよ」


「ハロルド! 私の事はお姉様と呼びなさいと、何度も言ってるでしょ!」

「はいはい……ん?」


 姉弟喧嘩? の後に、ハロルドと目が合ってしまった。

 徐々に赤らむハロルドの顔。

 恥ずかしくて私まで赤くなってしまう。


「だ、誰だそいつ!? リアーナはどうしたんだ!」

「はぁ? リアーナちゃんなら居るでしょ。ここに」


 ミリアさんにそう言われ、キョロキョロと辺りを伺うハロルド。なんだか小動物みたいで可愛い。


「どこにも居ないじゃないか! まさか追い出したんじゃないだろうな!? リアーナは俺の客人だぞ!」

「だから……ここに居るってば」


 痺れを切らし私を前に突き出すミリアさん。突然ハロルドとの距離が近くなり、益々恥ずかしさに襲われる。


「まさか……」


 あ、固まった。

 やっと気付いてくれたかな?


「そのまさかよ」

「なっ!」


 お、動き出した。


「リアーナになんて事してくれたんだ姉貴! 大丈夫かリアーナ!? 俺の姉貴が悪ふざけしてすまなかった! "男"なのに、こんな格好嫌だったよな……」

「「えっ……?」」


 その場にいた全員が声に出していたと思う。ハロルドの側で控えていたセルジさんなんて、頭を抱えているくらいだ。


「ちょっと、あんた本気で言ってる?」

「なにがだよ! それより、俺の客人になんて事してくれたんだ! いくら妹が欲しかったからって、少し女顔のリアーナを玩具にして言い訳じゃないぞ!」


 私の女要素、少しなのね……。


「あんた本当バカ……」


 あまりの天然っぷりに、ミリアさんも頭を抱えている。


「バカはどっちだよ! さあ、リアーナ着替えに行くぞ! 少し大きいかもしれんが俺のを貸してやる」


 私の手を取り食事の間を出て行こうとするハロルド。

 確かに、底抜けに優しいのは分かった。けど――


「違う……」

「違う? 何が違うんだリアーナ?」


 もう、いい加減気付いてよっっ!


「私は女の子っっ!!」


 渾身の(作った)谷間を、ハロルドの目線に合わせ見せつけてやった。


「んぅ? ……なっ!?」


 これで分かった? 私は、れっきとした女の子よ!


「……ハ、ハロルド様?」


 固まるハロルドに声をかける。

 けれど、私の谷間を見たまま固まったままだ。


 数秒経っても微動だにしないハロルド。

 ど、どうしよう!?

 ハロルドが、動かなくなっちゃったっっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る