第17話

 朝食を食べ終わった後、私はこれからの予定をスケジューリングする事にした。一旦離れの客室に戻り、羊皮紙に羽ペンで予定を書きなぐる。


「えっと、朝食後はお父様と花の手入れをして、雨の日は雑談かチェスね……」


 私の予定は以下の通り。


 朝食後

 お父様と花の手入れ(雨の日は雑談かチェス)


 午前~昼食まで

 ミリアお姉様と魔法の訓練(たまに買い物)


 昼食後~お茶の時間まで

 ハロルドと剣の稽古と遊びに付き合う。


 お茶の時間~夕方まで

 ミカエルお兄様とティータイムしたり絵を描いたり。


 こんなもんかな?

 うわっ、改めて見ると予定パツパツじゃん……。


 特に午後がきつい。剣の稽古は想像つかないし、ハロルドとの遊びでどれだけ体力を使うか分からない。


 うーん……でも、ハロルドは恩人だからなるべく付き合って上げたい。ここは、お父様とミカエルお兄様を一日毎にして貰った方が良さそうね。


 後は、実際にやってみないとなんとも言えないか。


 ある程度の予定を組んだ私は、お父様が待つ中庭へと向かった。汚れても良いように、作業用の服を用意してもらっている。


「お待たせしました!」

「おお、待っておったぞ。そう言えば、昨日の夜に見た花はどうだった?」


「とても綺麗で幻想的でした!! あんなに美しいものがあったなんて、知る事が出来て幸せです。見せてくれてありがとうございました!」

「そうか、それは見せた甲斐があったな」


 昨日の夜。パーティーが終わった後で、私は中庭へと案内され、夜にしか咲かない『七色幻花(なないろげんか)』という花を見せて貰った。


 暗闇の中、七色の光を放つ花。


 生きを飲むような美しさと幻想的な雰囲気は、まるで別世界に連れて行かれたかのような感覚だった。


「どうだこの国は? 他国が噂しているような、魔の巣窟だったか?」

「まったくっ! みんなとっても良い人で、なんでそんな事を言うのか分かりません……」


「ガハハハッ! そうかそうか。実を言うとこの国には、他国が喉から手が出るほど欲しがる、宝が眠っておるのだ」

「宝……?」


「ああ、それはまた別の機会に教えてやろう。あまり深く知ると危険だからな。リアーナが自分の身を守れるようになってからだ」

「なんだか怖い秘密ですね……私、怖いから知らなくて良いです!」


 私がそう言うと、お父様は愉快そうに笑い、それ以上"秘密"については話さなかった。その後は談笑しながら花畑の手入れをして、お父様との平穏な時間を楽しんだ。


 公務の時間が迫ったお父様と別れた私は、汚れた作業着を脱ぎ、動きやすいズボンとシャツに着替えた。正直、男物の服はゆったりしてて楽を覚えてしまった……。


 次はミリアお姉様と一緒に、城のお抱え"魔法使い"様に会いに行く時間だ。


 どんな人か想像つかないけど、お父様が小さい頃から魔法を教えていると聞くと、杖を着いたおじいさんかな? なんて、単純な想像をしてしまう。


「お待たせ、ミリアお姉様!」

「ふふ、時間通りよ。さあ、行きましょうか」


 ミリアお姉様と城を出て、裏手にある森の林道へ入って行く。


「ここは何も出ないから大丈夫よ」


 なんて言われたけど、やっぱりちょっと怖くなり、ミリアお姉様の袖を掴みながら歩いてしまう。


「魔法使い様は、こんな所に一人で住んでるの?」

「そうよ。もう何十年もね」


 お年寄り一人で、生活は大丈夫だろうか? 大きなお世話かもしれないけど、そんな心配が浮かんできてしまった。


 薄暗い森の林道をしばらく進むと、ようやく開けた場所へ出る。そこには、一軒のお家がひっそりと佇み、煙突からモクモクと煙を出していた。


 お家の左隣には、斧が刺さっている幹があり、薪割り場だと一目で分かった。反対の右隣は、コケコケ鳴いている鶏小屋が見える。


 少し寂しいかもしれないけど、自由自適でのんびり暮らせそう。そんな穏やかな空間だった。


「あ、マグダット先生~!」


 お家から出てきた人物に、ミリアお姉様は手を振りながら声をかける。


 スラッとした長身に、真っ赤な髪の毛をした男性。

 青くて大きな瞳は、少しタレ目で優しそうな雰囲気。


 先生って事は、魔法使い様の様子を見に来た、お医者様かなにかなのかな。私が勝手な想像をしていると、ミリアお姉様から衝撃の事実を伝えられる。


「あの人が、うちのお抱え魔法使いよ」

「へ~、あの人が……!?」


 えっ、嘘でしょ? だってあの人……凄く若いよ!?

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