第10話

「ミリアお姉様の妹でもあり、ハロルド様の弟でもあります!」


 ピンチを乗り切るには、勢いしかないと思いました!


「なんだそれ? 妹だけど弟?ちょっと待て、頭が混乱してきた……」


 勢い作戦、ハロルドには良く効いたみたい。

 頭の上にクエスチョンマークがハッキリ見える。


「まあ、それで良いか」


 ミリアお姉様も納得してくれたみたい。その後は、明日ゆっくり話ましょうという事で、混乱したハロルドを連れ城に帰って行った。


 私も離れの客室に帰り、用意されていた寝間着に着替えすぐにベッドに入った。凄く疲れた一日。色々あり過ぎて頭の中がごちゃごちゃだ。


 ベッドの中で考えを整理しようとしてたけど、眠気に襲われ意識は強制的に途切れてしまう――



 翌朝。私は頭を撫でられる感触で目を覚ました。眠気眼でうっすらまぶたを開くと、ミリアお姉様が穏やかな表情で私に寄り添う姿が映る。


「ミリアお姉様……?」

「やっと起きたのね。寝坊助さん」


「えっ、私どのぐらい寝てました!?」

「お日様がもうすぐ真上に来てしまう位かしら?」


「そんなにですかっっ!? ご、ごめんなさい私……」

「大丈夫よ。昨日は色々あったのだから仕方ないわ。それより、今日は私とお買い物に行きましょう!」


 飛び起きた私に、ミリアお姉様から買い物のご提案。

 私の洋服とか、必要な物を買いに行こうと言ってくれた。


 最初は遠慮して断ったけど、妹が気を使うなと逆に怒られてしまった。だから遠慮なく甘える事にした。


 買い物はお昼を食べてから行く事になり、それまではハロルドの遊びに付き合う。一応、ハロルド専属の遊び侍女? 執事? という名目なので仕事はしないとね。


 ミリアお姉様と一時別れた私は、ハロルドが居る中庭に行く事にした。


 中庭では、昨日ハロルドが見せてくれた小さなお花畑が、キラキラとした光をたっぷり浴びて元気に咲いている。


 そこには、黒々とした顎髭を携えた少し強面の庭師の人? が汗を流しながらも丁寧な手つきでお庭の手入れをしていた。


「綺麗なお花畑ですね」

「ん? お嬢さんこの花畑の良さが分かるのか?」


「丁寧で心のこもったお手入れのお陰で、お花達が喜んでいるように見えます!」

「ガハハッ、そうか? こりゃ嬉しいね」


 強面の庭師さんの顔が優しくなる。

 自分の仕事を褒められて嬉しくない人はいないよね。


 でも、本当に丁寧で心がこもっていると思う。無駄な雑草はないし、お花の種類毎に区切ってあるから、見映えも綺麗だ。


「どれ、お嬢さんにはとっておきの花を見せてやる。夜になったらここに来なさい」

「夜ですか?」


「ああ、夜にしか咲かない花を見せてやろう。月夜に照らされるとキラキラと光る希少な花だぞ」

「凄いっ! 是非見たいです! 絶対来ます!」


 夜にだけ咲く花なんて聞いた事がなかった。それだけでも興味が沸くし、なにより綺麗で幻想的なものは大好きだった。


「ガハハッ! そうか絶対か! お嬢さんみたいに分かる奴に見て貰えると、わしも嬉しいぞ。子供らは一つも興味を示さんのだ!」

「え~、勿体ないです! こんなに綺麗なお花、他では見れませんよ?」


「そうかそうか! いやー、お嬢さんみたいな娘が欲しかったな! ああ、そうだ! 良かったら養子にならんか? お嬢さんなら大歓迎だ!」

「本当ですか? どうしようかな~、なっちゃいますか!」


 庭師のおじさんと冗談まじりに談笑していると、時間を忘れてしまう。こんなお父様なら良かったな……。


「おーい! リアーナ!」


 暫く談笑を続けているとハロルドの声がした。ミリアお姉様から、ハロルドはここに居ると言われて来たんだけど、どこかに行ってたのかな?


「ハロルド様おはようございます!」

「おはようリアーナ! 体調はもう良いのか?」


「はい、お陰で元気いっぱいです!」

「ははっ、それなら良かった! そう言えば、今日は午後から姉貴と買い物に行くんだって?」


「はい! お洋服とか、必要なものを買ってくれるそうです!」

「そうか、まあ必要な物を揃えて来ると良い。じゃあ、それまでは俺に付き合えよ?」


「畏まりました! それで、何をするのですか?」

「そうだな……ん? てか、そこいるのは親父じゃねえか」

「やっと気づいたか馬鹿息子」


「んぅ? ハロルド様のお父様?」

「そう、そこで庭弄ってる強面のおっさんが俺の親父」

「おっさんとはなんだ馬鹿息子! わしの事は父上と呼べと何度言ったら分かるのだ!!」


「はいはい。で、リアーナとはもう話したのか?」

「ああ、賢くて愛嬌のある良いお嬢さんだ。それに、わしの花達を褒めてくれたしな。養子にしようと思ってる」


「お、それいいな! 養子になれば本当の弟になるじゃん!」

「何を言ってる馬鹿息子。弟じゃなくて"妹"だろ」


「はあ? リアーナは男だぞ」

「はあ? お前、馬鹿か?」


 はい、そのくだりはもう良いんです!それよりっ……。


「グ、グレイテスト王ですかっ!?」

「ああ、その通り。わしこそ、デュラハンド=グレイテスト王ぞ! 宜しくしてくれ……我が"娘"よ」


 ど、どうしよう私っ!?

 まさかグレイテスト王だなんて思わないよー!


 いや、昨日ハロルドがうちの親父は花が好きだって言ってたじゃない! あ~! 私の馬鹿!


 庭師のおじさんだと思って、凄く気軽に談笑しちゃったじゃないっっ!! えっ……もしかして私、打ち首?

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