第11話
う~ん、この状況……どうしたら良いの?
「さあ、我が娘よ。わしの隣で食事を取るが良い」
「リアーナ、私の隣で楽しくお食事しましょう♪」
「リアーナちゃん、素敵なレディは僕の隣がお似合いだよ」
「リアーナは俺が拾って来たんだぞ! 勿論、俺の隣で飯食うよな!?」
そんな、拾ってきた子犬みたいな言い方しなくても良いじゃないっ。いや、拾われたのは確かなんですけどね。
それより、誰の隣に行くべきか……。
ここはグレイテスト王の隣が無難か。
ミリアお姉様と、お喋りしながらのお食事も魅力。
ミカエルさんは……レディファーストで心地好いお食事が出来そうね。いや、やっぱりここは、恩人のハロルドの隣に行くべきよね?
あー! どうすれば良いのかしらっっ!?
「みな様、リアーナ殿が困っております。体は一つしかないのですぞ」
私がどの席にすれば良いかウロウロして困っていると、ハロルド付きの執事セルジさんが、みんなをたしなめてくれた。
「セルジの言う通りだな。ここはやはり、あの席だ」
「そうね、それが最適かもね」
「僕は賛成~」
「あの席か……よし、そうしよう!」
あの席ってなに……?
困惑する私が座らされたのは、長テーブルでも短い辺の席。正面は誰も座っておらず、グレイテストの豊かな自然が描かれた風景画が見える。
左はグレイテスト王。その左隣はミカエルお兄様。
右はハロルド。その右隣はミリアお姉様の順。
そして私の背後では、歴代のグレイテスト王達が描かれた肖像画が、新参者に睨みを効かせていた。
「そこは元々わしの妻が座っていたのだ。彼女はそこでわしらを見守り、女神のように微笑んでいた」
寂しげに語るグレイテスト王の表情を見ていると、心が締め付けられる。王妃様はもう、いらっしゃらないのね……。
「暗い顔するなよ親父! 今日はリアーナの歓迎パーティーもあるんだぞ」
「ああ、そうだったな。盛大に祝わなくてはな」
「招待客はバッチリ集めたわよ! 私達のリアーナをお披露目しましょう!」
「さすがミリア姉様。僕も女の子達に声をかけなきゃね」
いや、ちょっと待って! 歓迎パーティー?
「き、聞いてないですっ!」
「さっき決めた!」
爽やかな笑顔で答えるハロルドに、反論など出来る訳もなかった。歓迎パーティーとやらは、平民貴族関係なくグレイテスト王家に関わりが深い人達を呼んで開くみたい。
偉ぶった高飛車な奴は来ないから安心しなさいと、ミリアお姉様に言われたが、問題はそこじゃない。
ハロルド始めグレイテスト王家の人達は、私の火傷の痕について一切言及して来ない。こんな醜い私をお披露目なんてしたら、ハロルドやグレイテスト王が笑われてしまうんじゃないか。
そんな不安が浮かんで来てしまい、美味しい筈のお食事が喉を通らない。
「どうしたリアーナ? 腹でも痛いのか?」
そんな私を心配したハロルドが声をかけてくれる。ハロルドはもの凄く天然だけど、察する能力は素晴らしいと思う。
一応、顔には出してなかった筈なんだけどな……。
「大丈夫です! 昨日の疲れが抜けてないのかもしれませんねっ」
心配させたくなくて、適当な言い訳を口にしてしまった。普通の人ならこれで誤魔化せる。でも、この王家の人達は違った。
「嘘だな。訳を聞こう」
「嘘ね。お姉様に話してみなさい」
「そんなんじゃ僕達は誤魔化せないよ? なんでも言って良いんだよ」
「みんなうるさいぞ! リアーナ! ここで話し難いなら、他の所に行こう」
みんな私を心配して顔を覗き込んでいる。その瞳は、表面だけ取り繕っている偽物なんかじゃなく、本当に心から心配している瞳だと分かった。だって、偽物の瞳なら散々見てきたから……。
「あれ……おかしいな……なんで涙が止まらないんだろっっ」
私は思わず涙を流してしまった。どこからともなく溢れ出る濁流がどんなに我慢しても止まらないのだ。
その瞬間――私は暖かい毛布に包まれた。
後ろでミリアお姉様が抱きしめてくれて、左右ではハロルドとミカエルお兄様が頭を撫でてくれていた。
前ではグレイテスト王が膝をついて私の両手を握り、目線を下げてこう言った。
「わし達はお前の味方だ。なんでも言ってごらん」
子供の頃から言って欲しかった言葉。
抱きしめて欲しいと願った欲望。
この人達は、それを全部くれた。
「火傷の痕が恥ずがじくてっっ、みんなが嗤われたらどうじようっ、てっっ」
私は泣きじゃくりながらも全力で言いたい事を伝えた。
そんなみっともない私に、みんなは柔らかな表情を崩す事なく聞いてくれたのだ。
「これはお前を形作る化粧だ。これがあるから、今のお前がおる。賢く、優しく、逞しいお前の勲章だ。決して、恥ずかしいものではない。わしの国で、お前を嗤う者など居りはせん。そんな国作り、先祖の頃からしておらんからな!」
「本当に?」
「ああ、本当だとも。今夜、それを証明してやる」
「だな! 絶対楽しいパーティーになるぞ!」
「おめかし、しなきゃね!」
「きっと綺麗だね」
「姉貴、もしかして……またリアーナに女装させる気なのか!?」
「あ~、本当に面倒だわ……」
「馬鹿息子だと思っていたが、これほどとはな」
「これが弟だと思うと恥ずかしい」
「なにー! 俺は可笑しな事なんて言ってねえぞ!」
「はいはい」
「お前が次男で良かったわい」
「ハロルドはほっとこうねリアーナちゃん」
「ふふ、みんな仲良いですね」
「「……笑った!」」
私が思わず笑ってしまうと、みんなも自然と笑顔を見せてくれる。こんな素敵な家族の一員になれたら、どんなに嬉しいかと、心から思った。
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