第12話

 暖かい家族の温もりに触れたお昼の後、ミリアお姉様と約束していた買い出しに来ていた。


 仕立て屋さんに並ぶ綺麗な布とドレス達。


 サイズを測ってもらい、とりあえず歓迎パーティーで着るドレスを、出来ているものから選ぶ事になった。


 私のサイズに合うドレスが五着ほど用意されどれにしようか迷っていると、ミリアお姉様が豪快な一言を放った。


「全部買っちゃいなさい!」

「えっ!? 全部ですか?」


「そうよ。どうせ着るんだもん、今買うか後で買うかの違いでしょ。後は……この店にある布全部買うわ」

「ミリア様、いつもありがとうございます!」


 ニコニコの笑顔と揉み手で答える店主さん。

 さすが王族……買い物も想像出来ない買い方だ。


 普通、王族なら城に仕立て屋を呼び、欲しい布でドレスや洋服を作る筈。それなのにも関わらず、わざわざ仕立て屋まで来たのは、私の気分転換も兼ねている気がする。そんなミリアお姉様の計らいに、感謝の言葉しか浮かんで来ない。


「ミリアお姉様……ありがとう」


 私はミリアお姉様に抱きつき、その豊満な胸に顔を埋める。お昼の件があってから、凄く甘えたになってしまった……。


「よしよし……本当に可愛い妹ね」

「お姉様大好きっっ」


 私は調子に乗ってそんな一言を漏らしてしまう。

 言い終わった後に来る後悔。


 さすがに少し引かれたかとミリアお姉様の顔を伺うと、綺麗な瞳には涙が浮かんでいた。


「お、お姉様!? わ、私、なんか失礼な事――」

「違うのよ!」


 言葉を遮るように、焦って離れた私を抱きしめるミリアお姉様。されるがままで次の展開を待っていると、ミリアお姉様は涙の理由を教えてくれた。


「私ね、ずっと妹が欲しかったの……一緒に遊んだり、買い物したり、お喋りしたりする仲良しの妹が……ほら、下の弟達は自由奔放でしょ? お姉様お姉様って感じじゃなかったの。だから、私嬉しくって! こんなに可愛い妹が、自分を慕ってくれるなんてっっ」


 自分の気持ちを語るミリアお姉様の言葉に、私はつい、自分の妹を思い出してしまった。


 私の妹は両親に愛されすくすくと育った。

 でも、甘やかされてワガママ放題。


 私の持っていた物は勿論奪うし、姉として尊敬されるなんて事は皆無だった。でも私は、そんな妹でも可愛いと思ったしそれなりに可愛がったと思う。


 それが報われた事はなかったけどね……だからなんとなく、自分を慕う妹が欲しいと思うミリアお姉様の気持ちが、分かってしまった。


「私はミリアお姉様に出会えて良かった。まだ出会って一日しか経ってないけど、昔からずっと一緒だったみたいに落ち着く。もっと早く……ううん、最初からお姉様の妹として生まれていればって、心から思う。私、お姉様とずっと一緒にいたい!」

「リアーナ……うん、ずっと一緒よ。いいえ、リアーナが離れたいって言っても、絶対離さないからね!」


 私達は顔を見合せ笑い合う。その後も勿論、手を繋ぎお喋りをしながら、色々なお店に寄って買い物を楽しんだ。


 そこで分かったのは、グレイテスト王家の人達は町に降りて気軽に買い物をしていくという驚きの事実だった。


 町行く人々はミリアお姉様とすれ違うと、必ず笑みを浮かべて挨拶をしていく。


 今日は良い天気ですね。今日はあのお店に掘り出し物がありましたよ。などと、一言二言他愛ない会話をしてすれ違っていくのだ。


 ミリアお姉様も嫌な顔一つせずそれに答え、愛想よく手を振って別れる。きっと、これがグレイテスト王家の日常なのだと感じた。


 国民と触れ合い、ありのままの自分達を見せる事で、グレイテスト王家と国民は信頼を築いている。短い出来事でもそれに気づいてしまうほど、グレイテスト王家は国民に愛されていると分かる。


 お土産も数えきれないほど貰っていた。畑で取れた新鮮な野菜や、出来立てのパンなど、王家が受け取る筈のないものまで、ミリアお姉様は嬉しそうに受け取っている。


 これも信頼のなせる技。国民がグレイテスト王家を信頼しているように、グレイテスト王家もまた、国民を信頼しているのだ。


 この出来事を見ていると、何故グレイテストが魔国などと言われ、他の国から嫌われているのか分からない。


 魔国の魔王を倒せ。それが世界の民意だ。そんな戯れ言を、各国の王や首脳達は民衆を煽っている。


 魔物が蔓延るのは魔国のせい。

 きっと、怪しげな魔術を使い魔物を産み出している!


 私の国では、そんな事を堂々と恥ずかしげもなく宣言し、戦争を仕掛けようとしている。その証拠に、私の元婚約者であるルディウスを勇者などと祭り上げ、魔王を倒して来いと送り出した。


 今考えれば、凄く馬鹿馬鹿しくて滑稽。

 一体、魔王はどっちなのかしら。


 自然と心が豊かなこの国を、他の国は食い潰したいだけではないか。そんな考えさえ浮かんで来てしまう。


「どうしたのリアーナ? 難しい顔をして」


 帰りの馬車。私がそんな事を考え込んでいると、ミリアお姉様が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「ちょっと考え事しちゃって……あ、そう言えば、今日のパーティーで着る服はどうすれば良い? ハロルドの事を考えると、ドレスは辞めた方が良いと思うの……」


「なに言ってるのよ! あの天然お馬鹿さんに気を使う事はないわ! リアーナが着たい服を着れば良いの。それに、いい加減気づかせて上げないと、これから面倒な事になるわよ?」


 ミリアお姉様の言う事はもっともだ。もし、このまま男だと嘘をついていると、バレた時にどんな顔をされるか分からない。


 いや、勘違いしてるハロルドが悪い! そう考えるのは簡単なんだけど……出来れば自然と気づいて欲しい。


「そうだよね! 今夜は精一杯可愛くなって、ハロルドに女の子だって認めさせる! 何度固まっても、諦めない!」

「その意気よ! この際、ハロルドを惚れさせてメロメロにさせちゃいましょ!」

「うん! 頑張る!」


 そう意気込んでいた私だけど、まさか今夜のパーティーであんな予想外の出来事が起こるとは、思ってもいなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る