第14話

「みな、よう集まってくれた。今宵はわしらグレイテスト王家に、新たな家族が増えた事を祝う晩餐会。是非とも楽しんで行ってくれ」


 きらびやかな飾り付け。お洒落な人々。私の目に映るのは、今まで経験したことのない心からパーティーを楽しむ人々だった。


「さて、今宵の主役が登場したようだな」


 グレイテスト王、いえ……お父様からこちらへ来るように合図が飛ぶ。


「ほら、行ってきなさい」

「う、うん! 行ってくる!」


 ミリアお姉様から背中を後押しされ、お父様の待つ壇上へ向かい歩いていく。


 注目を浴びる私。でも、決して奇異な者を見る視線ではない。どちらかと言うと、グレイテスト王家が認めた者とは、どんな人物なのか。そんな、見定めるような真剣な視線だった。


「今晩は皆様……」


 壇上に上がった私は、ドレスの端を持ち貴族の挨拶をする。


「堅苦しいのはなしだぞ、リアーナ。お前がどんな人柄なのか、自分の言葉でしっかり伝えよ」

「は、はい……」


 礼儀正しく失礼のないようにしないと。そう思って固くなっていた私に、お父様は無礼講で往けと、豪快なお達しを出した。


 自分の言葉。改めて考えると、私は人の顔色ばかり伺って生きてきたのかもしれない。自分の気持ちを抑えこみ、嫌われないようにと。


 でも、今日はそんな事忘れよう。ここに来てまだ二日だけど、その短い時間で私は、正直に気持ちを表す大切さを学んだ気がする。


「私はっ!!」


 あえてみんなの注目を集めるように、大声を張り上げた。そして、一呼吸置き高鳴る心臓をいさめてから、ゆっくりと話し始める。


「私は、どうしようもないほど臆病者でした……」


 幼い頃の話。そして婚約者に捨てられ彷徨っていた所を、ハロルドに助けて貰った事。グレイテスト王家の人達と触れ合い、家族の暖かさを感じた事。町に降り、グレイテストの人々の豊かな心に感動した事。


 私は生まれてから今この時の出来事までを、精一杯語った。それをみな、ただ静かに、真剣に聞いてくれていた。


「だから私は……この国の一部になりたいのです!」


 高らかな宣言を最後に、私は話を終えた。

 静まる会場。どう反応が返ってくるのか。


 緊張がピークに達し、手汗を感じる私に、パチパチという高い拍手の音が贈られ始めた。


「ようこそグレイテストへ!」

「あなたのような純粋な人なら大歓迎よ!」


 まばらだった拍手の音は、時間が経つにつれ増えていく。そして……全員の拍手が、爆発のように鳴り響き私を包んでいた。


「ありがとうございますっっ……」


 思わず涙が溢れる。みんなの暖かい心に、何度も感謝の言葉を叫んだ。でもね、一つ気がついた事があったの。


 居ないのよ……ハロルドが!


 え、なんで居ないのよ!?

 今一番聞いて欲しかった人なのだけどっっ。


 これを聞いてくれれば、私が女の子だって嫌でも気がついた筈。それがどうして、大事な時に居ないのよ!


 私は鳴り止む事のない拍手に包まれながら、会場をキョロキョロと見回した。けど、ハロルドの姿はやっぱり見えない。


 そのまま暫く辺りを伺っていると、会場の扉を開け放つ人物が現れた。


 扉の近くには、ミリアお姉様が穏やかな表情で私を見守っている。その横に焦りながら現れたのは、


「悪い! 遅れた!」

「はっ!? あんた居なかったの!?」


「いや、それがよ……リアーナにプレゼント渡そうと思って買いに行ってたら、何が良いのか迷った!」

「あんたって奴は……大事な時に居ないんだから!」


「な、なんだよ大事な時って!」

「リアーナが大切な話をしてたのよ! お陰でみんなから認められたのよ!」


「おおっ、すげえなリアーナ! さすが、俺が目をつけた奴なだけあるな!」

「あんたが誇らし気でどうすんのよ! 良いからほら、今の輝いたリアーナちゃんを目に焼き付けなさい!」


「ん、ああ……って、全然見えねえぞ?」

「あらま、人が押し寄せてるわね……」


 人が押し寄せる前に、辛うじてハロルドの姿を確認出来た。大事な場面は見て貰えなかったけど、まだチャンスはある筈。


 なんて言ったって、そのチャンスのために綺麗におめかししたんですものっ!


「リアーナさん! あなたうちの息子と婚約なさらない!?」

「いや、うちの息子とだな!」


「私とお友達になりましょうよ!」

「僕もお近づきになりたいな!」


 みんな私を囲み、次々に暖かい言葉をかけてくれる。

 凄くありがたいし、嬉しいんだけど……ハロルドの所へ行かせてっ~!



 そんな時――


 私は強引に手を取られ、人だかりから連れ出される。


 その人物は、眩しい視線を私に贈りながら、予想外の言葉を言い放った。


「君は女神のような人だ。自分の弱さをさらけ出し、それでも強く生きようとするその心。僕は心を射たれると同時に、ハートを掴まれてしまった……リアーナ!」

「は、はい……」


「僕と……結婚してくれっっ!!」

「え~と……ん? け、結婚っっ!?」


 お、お兄様っ!? 一体、どうなさったと言うのですか!?

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