第13話

 ミリアお姉様と素敵なお買い物を終え、お城に帰った私は、さっそく今夜開かれる歓迎パーティーの準備に取りかかった。


「これなんか良い香りで殿方が喜びますよ」

「本当だ! でも、ハロルド様に効きますかね?」


「ぼ、坊っちゃんはどうでしょう……」

「ですよね……」


 ベテラン侍女さんに香水を選んで貰い、女性らしい香りがするようになったが、ハロルドに効き目はなさそう。


「あら、可愛さに磨きがかかってきたじゃない」


 赤いドレスにハイヒールを履き、軽くお化粧もして貰った。様子を見に来たミリアお姉様は褒めてくれるけど、やっぱり女の子として重要なものが欠けている気がする。


「髪、切らなきゃ良かったな……」

「そう言うと思ったのよ!」


 後悔して項垂れている私に、ミリアお姉様は背後に隠し持っていた秘密兵器を私に差し出した。


「こ、これは……?」

「ふふ、これはね……エクステンションよ!」


「え、えくすてんしょんって……なんですか?」

「人の髪で作ったつけ髪よ」



 ああ、ウィッグみたいなものか。貴族のパーティーなんかでは、良く着けてる人を見た事がある。でも、ミリアお姉様の持っているつけ髪は、私の知ってるウィッグとはちょっと違う。


 私の髪色と同じ金髪の長い髪を束ねてあり、それが数セット用意されていた。


「座って待っててね」

「わ、分かった……」


 鏡台の前に座り、ミリアお姉様に言われた通り大人しく待っていると、頭がポカポカする感覚を覚えた。


「な、なにしてるの?」

「ふふ、お楽しみ♪」


 気になって聞いてみたが、ミリアお姉様は悪戯っぽく笑い教えてくれない……。


 それから数分後。


「出来たわよ! ほら、後ろを見て見なさい!」


 ミリアお姉様の合図で立ち上がり、鏡に背を向けて渡された手鏡で後ろ姿を確認してみる。


「うわっ……凄いよミリアお姉様! 私の髪が元に戻った! ど、どうやったの!?」

「喜んでくれて嬉しいわぁ♪ これはね、魔法の力でやったのよ!」


「魔法? ミリアお姉様って……魔法使いなの!?」


 私が驚いてそう聞くと、ミリアお姉様は笑っていた。

 いや、笑われてしまったのかな?


「そうね、ある意味では魔法つかもね」

「もうっ、ちゃんと教えてくれたって良いじゃないっ」


「ごめんごめんっ、あのね……」


 私が頬を膨らませて怒ったふりをすると、ミリアお姉様は不思議な魔法について教えてくれた。


「私達グレイテスト人が、他の国より魔法適正に優れているのは知っているわね?」

「うん、確か……十人に一人は適正があるんだよね?」


「そう、それでね……その魔法を国民に教えたのが、私達の先祖である初代国王なの」


 それからミリアお姉様は、グレイテストの歴史について語ってくれた。


 グレイテストの知られざる歴史は、他の国にいたのでは絶対に聞く事が出来ない。私は夢中で聞き入り、首をブンブン振って頷いていた。


「ふふ、こんな話つまらないでしょ?」

「そんな事ない! もっと聞きたい!」


「そう? じゃあ、暫くの間は寝物語として聞かせて上げるわね♪」

「うん! あ、て事は、お姉様と一緒に寝れるの!?」


「もう、本当に可愛い妹ね……勿論、良いわよ?」

「嬉しい♪ ねえねえ、私も魔法使えるかな?」


 魔法の適正なんて調べた事なかった。

 貴族社会に居ては、魔法など使う機会がないのだ。


 勿論、幼い頃に魔法の力に目覚めた特異な子は、専門の学校に入り魔法使いとして世に出ていく事もある。


 でも、そんな奇跡が私に起こる筈もなく、平凡を絵に描いたような特徴のない女。そんな私でも、魔法が使えればどんなに素敵な事かと妄想が膨らんだ。


「そうね、後で調べてみましょうか。うちの城にはお抱えの魔法使いが住んでるしね」

「そうなんですか!?」


「ええ、父が幼い頃から魔法を教えてきた凄い人なのよ」

「その人に頼めば私もっ!?」


「はいはい、興奮するのはまだ早いわよ。魔法の事はまた明日ね?」

「はーい……じゃあ、そろそろ?」


「ええ、そろそろ始まるわよ!」

「いざ……」


「「戦場へ!」」


 私とミリアお姉様は、息を揃えて戦場へ出向いて行く。

 天然王子様である強敵の元へ――

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