第21話「デート②」

「お、久しぶりですねハロルド王子!」

「おう、今日はおっちゃんの世界一美味いオムレツを、食いにきた!」


「ふふ、それを聞いたらシェフも喜びますね。さあ、掛けて下さい!」


 給仕の女の子に案内された席に座り、辺りを見渡してみる。


 お昼時とあって賑わう店内。客層もバラバラで、若い男女もいれば壮年の夫婦もいる。共通しているのは、みな楽しそうに食事を取っている事だ。


「人気なんですね、ここ!」

「ああ、国一番だと思うぜ俺は。格式ばった高い店で淡々と食事するより、こういう暖かい店で笑って飯を食った方が何倍も幸せだ! リアーナもそう思うだろ?」


「はい!」

「お、さすが俺の弟だ!」


 そんな純粋な笑顔で聞かれたら、はいと言う他ないよね……。


 それに私も、礼儀や作法を気にしながら食べる食事よりも、こうやって気軽にお喋りしながら食べる食事の方が、何倍も好きだ。


「オムレツの他に食いたいもんがあれば、好きに頼んで良いからな!」

「はい! じゃあ……お肉!」


「ははっ、そうか肉か! 良いぜ、ドンドン頼め!」

「やったー!」


 調子に乗った私は、次々に気になるメニューを頼んでしまった。そして注文の品が揃う頃には、テーブルの端から端まで、美味しそうな料理で埋めつくされていた。


「おいおい……頼み過ぎだぞ、リアーナ」

「だって、ハロルド様がドンドン頼めって言うからっっ」


「まあ、そうだな! おーし、気合い入れて食うぞリアーナ! まずはオムレツ食ってみろ!」

「はい! いっぱい食べます!」


 ハロルド一押しのオムレツにスプーンを入れてみる。

 フワフワの卵に、一切の抵抗なく入っていく。


 黄金に輝くオムレツの中からは、お肉や野菜を刻んで入れたソースが溢れ出てくる。


 立ち込める美味しそうな匂い。私は我慢出来なくて、スプーンに乗せたオムレツを頬張った。


「……美味しいっっ!! 凄く美味しいです!」

「だろ! これを食ったら、普通のオムレツなんか食えねえぞ?」


 確かにハロルドの言う通りかもしれない。こんな美味しいオムレツを味わってしまったら、普通のオムレツじゃ満足出来なそう。


 勿論、他の料理も全部美味しかった。どれも丁寧な味付けで、これが本当に食堂で出てくる料理なのかと、疑いたくなるほどに。


 値段も手頃で、こんな最高レベルの料理を食べられるなら、人気なのも頷ける。


 今度は、ミリアお姉様達と食べたいな。

 うん、それは無理だと分かってる。


 だって、王族が揃って食堂で食事を取るなんて事、ありえないよね。


「今度はみんなで来るか!」

「えっ!? みんなって、お父様やお姉様やお兄様も?」


「ああ、たまに来てるぞ。みんなで」

「ええぇぇ……」


 ありえたんかいっっ。

 す、凄い国だなグレイテスト王国……。


 衝撃の事実に驚きながらも、私とハロルドは楽しい食事を取り続けた。なんて事のない会話も弾み、ハロルドの事も少しずつ分かってくる。


「お似合いですなお二人!」

「ん、おっちゃん!」


 食事の途中で、この店の店主さんが挨拶に来た。

 恰幅の良い体格で、白い口髭が似合う優しそう人だ。


「相変わらず美味いなこの店の料理は!」

「こんな美味しいお料理初めてです!」

「ハハハッ! これは嬉しいですな!」


 お腹を揺らしながら快活に笑う店主さん。みんなもこの光景を見慣れているのか、微笑ましい表情で私達を見ていた。


「それで、この方はハロルド様の婚約者ですかな?」

「あ、いやっっ」


 今の私は男物を着て、ミリアお姉様の魔法で元に戻して貰った長い髪も後ろで縛っていた。端から見たら男か女か迷う所だけど、私が会う人達はみんな一発で女だと認識してくれる。


 ハロルドにも見習って欲しい所だ。

 早く気づいて天然王子!


「婚約者? おっちゃんなに言ってんだ? リアーナは俺の弟だぞ!」

「「はぁ?」」

「ぷっっ」


 出た! 必殺ド天然! お店の人達全員が揃ったハーモニーに、思わず吹き出してしまう。


「な、なんか大変そうですな……」

「大丈夫です! 慣れましたから!」


 耳元で私を心配する店主さんに、まったく気にしてませんと元気に言葉を返す。


 そんな私を不憫に思ったのかは分からないけど、気を効かせてくれた店主さんが食後に特製デザートを出してくれた。勿論、私だけ!


「当店自慢のプリンでございます。うちは卵料理が看板でね。このプリンもお口に合うと嬉しいですな」

「わぁ~! 美味しそう!」


 プルプルのプリンという料理は、見た目も可愛らしく、女の子なら絶対食べたくなるデザートだった。


 一口食べたら絶品。口の中で甘い香りが広がり、ちょっとほろ苦いカラメルが甘さとマッチして最高だった。


「幸せ~」

「ハハハッ! こりゃあ嬉しいですな!」

「ズルいぞ! 俺の分は無いのか!?」


「これが最後のプリンです! ハロルド王子はおかわりのオムレツでも食べてて下さい!」


 えっ!? 一国の王子にそんな事言って大丈夫!?

 そう思って焦った私だけど、


「おお! 一人一枚のオムレツがもう一枚食える♪ ありがとな! おっちゃん!」


 相変わらずの天然ぷりというか、純粋な優しいというのか。私の心配は、どうやら杞憂だったみたい……。


「大丈夫ですよ。こっちも慣れっこですから」


 店主さんがこっそり耳打ち。


 それを聞いた私は、ハロルドの行きつけのお店の人なら、それもそうだと納得。普段のやり取りを想像して、つい笑ってしまう。


「どうしたリアーナ? なんか面白い事でもあったか?」


 口元に食べカスを付けて聞くハロルド。それがまた子供みたいで、私の笑い声は止まらなくなってしまった。


 その後、楽しかった食事も終わりお店を出た私達。

 この後は、どうするんだろ?


「あー、食った食った! こりゃあ、剣の稽古はまた明日だな。食い過ぎて動けん!」

「ですね……お腹パンパンッッ」


「そうだ! この後、ハンターギルドに行こうぜ!」

「ハンターギルド?」


「なんだ知らないのか?」

「ハンターって、魔獣討伐を生業とする人達ですよね? それの組合ですか?」


「そうそう! 折角だからリアーナもハンターに登録しようぜ! 実は俺、A級ハンターなんだぜ」

「へぇ~」


 凄いドヤ顔で自慢気なハロルド。でも私は、A級ハンターだと言われてもピンと来なくて、気のない返事をしてしまった。重要な部分を聞き逃して……。

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真の聖女は爪を隠す 瑞沢ゆう @Miyuzu-syousetu

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