第15話

「ミ、ミカエルお兄様!? 一体なんの冗談ですか……」

「冗談のつもりはないよ。僕は真剣だ」


 確かに、ミカエルお兄様の表情は真剣そのもので、まっすぐこちらを見つめ離そうとしない。


「ですが、急に結婚と申されましてもっっ」

「そうだよね。急に言われても困るよね……でも、僕の気持ちは本物だよ。今すぐにとは言わない。ゆっくりと時間をかけて、答えてくれれば良い」


 あまり考えている時間はなさそうだった。

 第一王子が突然のプロポーズ。

 これほど衝撃と興味をそそるイベントは中々見れるものではない。


「わ、分かりました……考えてみます」


 みんなの視線が集まる中、私は返事を保留するしかなかった。


「おお、ミカエル様がとうとう結婚なさるのか」

「まだ早いわよ? 返事は保留みたいだし」

「だが、結婚すればいずれは王妃。断る理由もないだろ?」

「そうよね! 容姿端麗で素敵な王子様と結婚出来るなんて、女の憧れだわぁ~!」


 周囲は一大イベントに大盛り上がり。

 私は、少し気まづい……。



「ゴホンッ……盛り上がっている中悪いが、そろそろダンスの時間だ!」


 お父様が咳払いを一つして、みんなの注目を自分に移してくれた。軽快な音楽鳴り、みんなは手を取り踊り出す。


 ミカエルお兄様は気を使って私から離れ、来賓達の相手をしている。私はというと、突然のプロポーズに困惑してしまい、お父様の隣の席へと腰を落として、考え込んでしまった。


「すまんなリアーナ……うちの息子が」

「い、いえっ、お父様に謝って頂く理由はございませんっっ。ただ、ちょっとびっくりして……」


「であろうな……わしも驚いておる。しかし、どうだ? ミカエルとの結婚は嫌か?」

「嫌というか……まだ会ったばかりですし、それに……」


「ハロルドの方が気になっておるのか?」

「ち、違いますっ!」


 私が焦って否定すると、お父様は顎髭を触りながら少しいやらしい笑みを浮かべていた。


「ほう、リアーナはハロルドがタイプか」

「だから違いますっっ」


「よいよい。わしはどちらでも良いぞ? リアーナが娘になる事に、変わりはないからな……ガハハハッ!」


 ダメだ。完全に見抜かれてるわね……お父様の言う通り、ハロルドの事が気になっているのは間違いない。


 でも、まだ好きなのか自分でも分からない。

 だって、ハロルドは私の事を男の子だと思っている。


 好きとか嫌いとかの前に、男女のスタートラインにも立てていないんだよね。


 その事を思いちょっと暗い顔で項垂れていると、私の前に影が立つ。恐る恐る顔を上げると、ちょっと困っている表情をしているハロルドがいた。


「よ、よう、リアーナ……」

「ハロルド様っっ……」


 目を合わせると、二人して固まってしまった。なにか言いたい事がありそうな雰囲気に、緊張してしまう。


「リアーナってさ……」

「は、はい!?」


 もしかして、気づいてくれた!?

 ちょっと待ってっ、心の準備が!


「女になりたかったんだな!」

「はい……?」


「昨日も女装して今日も女装。さすがの俺も気づいたぞ! いや、そういうやつがいるのは俺も知ってる! だから否定はしないが、俺と遊ぶ時は動きやすい格好をしてくれよ? 女の服じゃ動きずらいからなっ!」

「は、はあぁ……」


 自信満々に何を言ってるのこの人?

 ちょっと斜め上過ぎて言葉が出ない……。


「そう思うと、その格好も悪くないな! 綺麗だぞリアーナ! お前が女だったら、間違いなく惚れてたぜ!」


 なな、なんですってっ!?

 なんでサラッと、そんな事言えるの!?

 どうしよう……心臓が、どんどん早くなっていく。


「大丈夫かリアーナ? もしかして……熱がぶり返したのか!? 大変だ!! 待ってろ! 直ぐにベッドへ連れて行ってやるからな!」

「あ、ち、違う!」


 気づいたら、ハロルドにお姫様抱っこされ、会場から連れ出されていた。私を抱っこしながら走るハロルドの顔は、とっても凛々しくて素敵だった。


 あ~、今日は作戦失敗だったな。

 でも、これはこれでいっか?

 ハロルドの胸板……逞しいな……。


 今日は失敗だったけど、私はまだ諦めた訳じゃない。

 いつかきっと、ハロルドに女の子だと気づいて貰うんだ。そして……自分の気持ちを確めたい。


 でも、今日はこのまま、ハロルドの逞しい胸板を堪能させて貰おうかな……。


「ベッドに着いたぞリアーナ! 待ってろ! 今、ドレスを脱がしてやる!!」

「いや、それはだめぇぇーっっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る