3-2.真夜中ピクニック~その4~

「なあ、春森。どうして透明人間になったかについては、本当にわからないんだよな?」

「さっきも言ったけど、原因は不明なんだ。ただなんらかの要因があって、私だけが特異的に透明人間になってしまった感じはする」

「……だよなあ。いままで透明人間になったなんてニュース聞いたことないし」

「だから、私は神様のイタズラかなって思ってる」

「神様のイタズラねぇ……。それなら、どうやって元に戻るかも気まぐれなのかもな」

「かもしれないね」

「……まったく冗談じゃないよ。とはいえ、今後の対策も必要になってくるだろうし」

「もしかして、三田村君考えてくれるの?」

「そりゃあ、初めての彼女なんだしさ。護ってあげたいって思うのが男じゃん」



 そうは言うモノの具体的になにをすればいいとかはわからない。ただ、なんとなく護ってあげられる方法はあるんじゃないかとは思うけど……。



「もういいよ」



 ほどなくして、春森の着替えが終わった。

 言われるがまま閉じていた目を開くと、春森は見慣れた制服姿で立っていた。

 その澄まし顔がなんとやら……。

 待ってたのはこっちだっていうのに、春森はまるでずいぶん前に着替え終わってみたいな態度で揺さぶりかけてくる。



「おまたせ。こんな夜分に呼び出しちゃってゴメンね」

「気にすんなって。それに春森が言ってた秘密とやらもよくわかったしさ」

「フフッ、ありがとう。でも、真相からすれば、私自身がピンチだったってオチが付いちゃったんだけどね」

「まあ確かに」



 その割には、ずいぶん遊ばれてた気がするんだが……。まあだけど、本人的には本当に助かったってことなんじゃないか?



「それじゃ帰ろっか」



 ……なんて言って、オレの懸念なんか知ろうともしないし。


 素っ気ない春森は教室の扉を開けて廊下に向かって歩き出した。

 オレはそのあとを追っていき、歩きながら背中越しに春森を見続けた。ついさっきまで、透明人間だったという事実があまりにも信じられないよ。

 『女の子の秘密』かぁ~……。

 これはアリそうでアリそうにない秘密だな。

 しかも、制御不能な力で、人に話しちゃマズような代物だし。それを対策するって言った手前、正直どうやったら対策が立てたらいいのやら……。

 なんて考えていたら、前を歩いていた春森の足が止まった。

 いったい何事?



「なんだよ? 急に止まるなよ」

「ゴメン、ゴメン。ちょっと思い出したことがあってさ」

「思い出したこと?」

「うん、そう。三田村君に、もうひとつ秘密を教えてなかったと思って」

「もうひとつの秘密?」



 と聞き返すと、突然春森が抱きついてきた。

 途端に女子特有のかぐわしい香りが漂ってきて、そのせいでオレはうろたえちまった。



「おわぁぁぁ~っ! は、春森っ!?」



 ただでさえ、からかわれているっていうのに、これ以上オレの理性をおかしくするような行動はやめてくれよ。

 でも、オレのカワイイ彼女はそれをやめようとはしない。なぜなら、矢庭に自分の口許に右手を当て、オレの耳元でささやいてきたからだ。



「――私のオッパイ、Hカップだよ」



 春森の秘密はまだまだいっぱい隠されているらしい。

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