6-1.偶然の再会~その2~
「え~っと、なにをしようかな」
ゲーセンに到着するなり、店内に置かれたゲーム機を物色する。
なにせここに来るのは久しぶりだ。以前は、帰りがけにゲームして、家に帰ってからもゲームしてって感じでしょっちゅう来てたっけ?
そう考えると、春森との時間を割くようになって、自分との付き合い方もだいぶ変わっちまったもんだよ。
「あれ? 三田村先輩?」
……なんてことを考えていたら、唐突に誰かに声を掛けられた。
背後を振り返って、その正体を確かめてみる。すると、そこには顔に見覚えのある美少女が立っていた。
春森よりは小さいけど、確実に大きい部類に入る胸。
身長は150代半ばで顔の丸っこさが身体のぽっちゃり感と相まって、男子が好みそうな体型をしている。頭のてっぺんからやや後方の位置からは、長いシッポのようなポニーテイルがつややかな黒髪の輝きを伴って下げられていた。
「玖波!?」
オレがそう名前を呼んだ少女、
珍しい苗字だから忘れえもしない中学時代の後輩である。
玖波とは、押しつけられて入ることになった図書委員時代のに出逢った女の子だ。出逢ったばかり頃は、なにをしていいのかわからずまごまごしてたんだよな。
懐かしいことを思い出しちゃったけど、そもそもなんでこんなところに玖波が……?
考える間もなく、玖波はオレのところに駆け寄ってきた。
「やっぱり、三田村先輩だあ」
「オマエ。こんなところで、なにやってるんだよ?」
「私は、友達と遊びに来ただけですよ。先輩の方こそ、なにされてたんですか」
「見ればわかるだろ? ゲームだよ、ゲーム」
「……あっ、もしかして彼女いないから、ひとりでさみしく遊んでたとか?」
「あのな、玖波。オレにだって、ちゃんとした彼女ができたんだぞ」
「またまたぁ~……。どうせ見栄で言ってみただけですよね」
いや、本当だっつーの。
というか、コイツも変わらねーよな。なんというか、オレをからかってくるっていうあたり春森と似てる気がする。
まあ、コイツの場合は昔からだけど。
「オマエもまたオレからかうって遊ぶ気かよ」
「どうせ『また』ってのも友達か誰かなんですよね」
「違げえつーの。本当だっての!」
「……え? ってことは、本当に本当なんですか?」
「ああそうだよ。正真正銘本当だ」
「えぇぇぇぇ~っ!?」
その驚きようはオレに失礼だぞ、玖波。
にもかかわらず、信じられないみたいな顔して玖波は驚いている。そんなにオレに彼女ができることがヘンか?
「……そっかぁ~。ついに、ついに三田村先輩にも春が来ちゃったかぁ~」
「なんか嫌みったらしく聞こえるぞ、ソレ」
「違います! 全然っ、全然! 私そういう風には思ってませんからっ!」
「本当かぁ~?」
「んもぉ~疑り深いなあ」
「そういうオマエの方こそ、どうなんだよ?」
「私?」
「中学んとき、オマエ図書室で何人かの男子に告られてたじゃん」
「ああ、そんなこともありましたねえ」
「はぐらかすな」
「アハハハ……失敬、失敬! ん~まあいるにはいますよ」
「んだよ、その煮え切らない言い方は?」
「まあちょっと……」
と玖波が目を背けて答える。
なにかあるみいな感じにも見えるけど気のせいか? でも、本人はなにもないみたいな雰囲気を醸し出してるし……。
あまり深く追求しないでおこう
。
「そういや、三田村先輩。中学時代のとき、よくここで一緒に格ゲーやりましたよね?」
「ああしたな。オマエ、見た目に似合わずやりこんでるから本当にビックリしたわ」
「小学校の時からずっとゲームが好きで、格ゲーは家でプレイしてましたからね。でも、ゲーセンでプレイするようになったのは、三田村先輩の影響じゃないですか」
「あれ? そうだっけ?」
「もう先輩ってば! 自分が無理矢理連れてきて忘れてるとかどうかしてますよ」
そういえば、そんな気もする。
確かコイツがまだ委員会に馴染めてなくて、まごまごしてたときに隠れてゲーム雑誌を読んでるのを見かけたのがきっかけだったっけ?
んで、ゲーセンに連れて行っても違和感なさげだったから、一緒に遊んだんだよな。
「そういや、そうだな」
「先輩ってば、格ゲーできるのかと思ったら全然ヘタだし」
「うるせえな! オレは下手の横好きでやってたんだ」
「じゃあ、いまはどうなんです?」
「……いや、まったくプレイしてない」
「えっ!? それじゃあ、今日なにしに来たんですか?」
「まあ、単純に暇つぶしだよ。オレの彼女は突拍子もないことをするのが好きでさ、誰も連れずにたったひとりで沖縄に出かけちまったんだ」
「沖縄っ!?」
「やっぱ、驚くだろ? しかも、まだ夏休みですらないんだぜ?」
しかも、欠席してまで行くことかってのがミソ。
当然のことながら、玖波は驚いていた。まあ、そんなアウティブナことができるのは春森ぐらいしかいないのだから、当然と言えば当然だよな。
「スゴい人ですね、三田村先輩の彼女さん」
「……だろ? 付き合ってるオレが当惑するんだから、どんだけアクティブなんだか」
「ちなみにどんな人ですか?」
そう問われ、オレはポケットからスマホを取り出した。
目的はもちろん春森からのSNSだ。さっき陽人にも見せたヤツだから、これを見たら苦馬のヤツも納得するだろうよ。
「こんな感じの子」
「どれどれ……」
と言って、玖波がオレの横からスマホをのぞき込んでくる。
映っていたのは、高らかと挙げたVサインとミステリアスな笑みを浮かべる春森。その背景には沖縄のキレイな海が広がっていた。
「あっ、カワイイ!」
「どうよ? オレの彼女様は?」
「どことなく雰囲気のある人ですね。しかも、三田村先輩がからかわれてそう」
「……いや、そこは当てないでくれ」
「あれ? さっきの『またからかう』って話は本当だったんですか?」
その問いかけには、さすがのオレでも精神的ダメージが大きかった。
ゆえに緘黙――。
玖波はそのことを「ふーん」とうなり声を上げながら面白がってたけど、オレにしてみれば言いたくないことでしかない。
オレはすぐさま明後日の方向を見てやり過ごすことにした。
「さ、さあな……」
「その焦りようは、本当のことみたいですね」
「知らねえよ!」
「あ~あ、意地になっちゃって」
「別にからかわれてるんじゃなくて、ただそういう遊びをされてるのであってだな……」
「それ言葉を換えただけで一緒じゃないですか」
「うぐっ……」
くっ、何にも言えねえ……。
やり過ごすつもりが思わず意地になっちまったことでバレちまったよ。
「おーい、真夏! なにやってるの?」
と思っていたら、急に別の誰かが玖波に向かって呼び掛けていた。
声のする方を見ると、どうやら玖波と同じ学校の生徒らしい。ワイン色のリボンとブラウスの第一ボタンの隙間から見える大きめの胸に目が行く。
「いま行くー!」
玖波はそう返事をするなり、
「それじゃあ、三田村先輩。また今度連絡しますから」
と言って、友達の方へと駆けて行ってしまった。
残されたオレは、去って行く玖波とその友達の後ろ姿ををなんとなく見つめた。同時にあの頃の玖波の面影を重ね合わせていた。
「玖波か……。なんかずいぶん変わっちまったな」
中学んときは、もっと大人しくて人見知りなはずだったはずなのに。でも、あの様子だと、高校デビューってヤツに成功したんだろうな。
オレはそのことを確認すると、当初の目的であるゲームをプレイして帰ることにした。
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