第5話「からかわれてるんじゃなくて、遊ばれてるのであって……」
5-1.求む! 元に戻る方法。その1
透明人間という秘密を明かされた日から数日後。
いまだオレの手の平には、春森の胸の感触が残っている。時折、想いふけっては「神様、本当にありがとう」なんてつぶやくこともしばしば。
まあラッキーといえば、ラッキーなんだけど……問題はそこじゃない。
「――病院?」
「もしかしたら、透明になること自体がなんかの病気かもしれないと思ってさ」
「それでどこ行くの?」
「う~ん、内科? 外科? 皮膚科?」
「なんだか当てずっぽだなあ」
「もしくは整形外科とか」
「三田村君、全然役に立ってない」
「そんなことないってば! オレだって、春森の身体のこときちんと考えてつもりだよ?」
「本当に~ぃ?」
う、疑われてる……。
そりゃあ、確かに何度考えても思いつかないのは事実だけど、オレだってやるときはやるんだっての。
でも、春森は信じてる気配なし。
「なになに? どうしたの、ふたりとも」
そんなことをやっていたら、急に誰かが話に割って入ってきた。
誰が食らい付いてきたは言うまでもない――坂下さんだ。
野次馬根性丸出しつーかなんというか……。当人は珍しいモノを発見した無邪気な子供みたいに目を輝かせてるし。
なんとか誤魔化しておかえり願わないと。
「いや、ちょっとね」
「『ちょっとね』じゃわからないわよ。アタシにも詳しく教えなさいよ」
「い、い、いやふたりで買いたい物があって……」
「買いたい物? なにか欲しいモノがあるわけ? 私でよければ、相談に乗るわよ」
「そ、そこまではいいよ」
や、やりづらい……。
坂下さんに諸般の事情を説明できないだけにマジでやりづらい。本当は説明すべきなんだろうけどなあ。
肝心の春森からは、「話すな」と言わんばかりの刺さるような眼差しが向けられているし。
どうにかして、この場から離れてもらわないと。
「なによ? 私に相談できないこと?」
「ゴメン。これはどうにかしてオレたちで決めたいことだから……ね、ねえ春森?」
「うん、そう。私たちでなんとかするから、優実は気にしなくていいよ」
「と、というわけなんだ」
まったく、誤魔化すのもひと苦労だよ。
だけど、坂下さんはあきらめる様子が見受けられない。
それどころか、メッチャ見てる!
オレたちのことをメッチャ怪しんでるよ! そうやって、 ジーっと眼を細めてオレの顔ををメッチャ観察する有様。
「ジィ~……」
「…………」
「………………」
「……怪しい……」
「……あ……怪しくなんかないよ……」
「そうだよ、優実。私たち、なにかやましいことしようって言うアレじゃないんだよ?」
「そりゃあそうだけどさ。こうも隠されたら、気になって仕方がないじゃない!」
あ~もう! 坂下さん、しつこい!
さっきから冷や汗がぜんぜん止まらないじゃないか。これじゃあ、ふたりで話をするって雰囲気じゃないよ。
「おい、優実。ふたりが困ってるぞ」
なんて思っていたら、近付いてやってきた陽人に助けられた。
ナイス、陽人――。
「だって、陽人君。このふたりってば、アタシに隠し事してるっぽいんだもん」
「別にいいじゃない。ふたりがみんなに秘密で買い物したって」
「むぅ~なんか納得できない」
プックリとクチを膨らませてる坂下さん。
小さな身体も相まって、まるでほっぺた一杯にドングリを詰めたリスみたい。カワイイけどさ、世話好きな一面がアダとなっちまってるよなあ……。
「すまないな、誠一」
そうこうしているうちに陽人が謝ってきた。
「いや、いいよ。こっちも怪しませるようなことして申し訳なかったし」
「もし、なんか手伝えることがあったら言えよ」
「ありがとう、助かるよ」
本当、陽人はいい奴だよ。
一年のときからの付き合いだけど、聖人君子かってぐらいに真っ直ぐな性格をしている。
話によると、陽人はいいとこの坊ちゃんらしい。だからなのかはわからないが、実際陽人は誰にでも好かれた。
そんな好青年に別れを告げ、オレは春森を連れて教室を出た。
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