2-2.真夜中ピクニック~その2~

 夜の学校って、正直に言えば苦手。

 なんか出そうって雰囲気醸し出してるじゃん? だから、 ビビりのオレにしてみれば、実質的な遊園地のお化け屋敷に思えてるわけ。

 とはいえ、好きな女の子から「自分の秘密を教えてあげる」なんて言われたら、行かないわけにはいかないでしょ? 

 それがなんなのかはわからない。

 でも、でもスゴくえっちな内容だったら事と次第によっては襲っちゃうかもしれないし。

 春森の秘密ってなんだろう?

 実は男でしたとか、胸の谷間にホクロがあるとか……いや、まあそんなのだったら、ちょっと興奮するけど。

 オレは守衛さんに断って、閉館した校舎の中に立ち入った。

 校内は日が落ちたせいで、完全に闇に包まれている。


 ……ってか、どこを探せばいいの?  春森にメッセージを送っても返ってこないし、探しようにも探せないじゃないじゃん。


 仕方ない。

 ここは、校舎の隅々を探して歩き回るとしますか。ということで、オレは校内をくまなく探し回ることに。

 一階から二階へ、二階から三階――と順を追って探す。けれども、探しても、探しても、春森の姿はどこにも見つからない。



「春森、いったいどこ隠れちゃったんだろう?」



 こうも皆目見当もつかないとなると、捜索は難航しそう。しかも、夜だから真っ暗でなにも見えないし、声も反響するから不気味なんだよなあ。

 そろそろ探し始めてから20分が経過。

 あらかた探したんじゃない勝手ぐらい探し回ったけど、春森は見つからない。こうやって歩くのも段々とツラくなってきたよ。


 ――ガタガタッ!!



「なっ、なに!?」



 と、西棟三階の空き教室で聞き慣れない音を耳にする。

 それは突然の出来事ですっかりビビっちまった。



「だ、誰っ――?」



 こんなときにやめてくれよ。

 ただでさえ、幽霊とか、ポルターガイストとかそういうのが苦手だってのにさ。しかし、なにも確認しないというわけにもいかない。

 小声で、ゆっくりと、音を立てず、引き戸を静かに大きく開ける。



「失礼します」



 けれども、肝心の室内には誰もいなかった。それどころか、空き教室は机の一つも置かれていない伽藍堂とした様子をしているし。



「……な、な、なんだぁ~誰もいないじゃん」



 まったく、脅かさないでくれよ。

 本当にいるんじゃないかって、こっちはヒヤヒヤしたんだぞ。大方、モノが落ちたか、微震でも起きたんだろうけどさ。

 と、とにかく、早く春森を探しに行かないと……。ここにはなにもない! ここにはなにもないからなっ!?

 などと思いつつ、扉を閉める。



「……ら……君……」



 ところがだ――。

 あろうことか、突然オレを呼ぶ声が室内からくぐもれてくる。そのことに気付いたのは、すでに扉を閉めたあとのこと。



「だ、誰かいるの……っ!?」



 おかげで恐怖心がマシマシで足がすくんじまったよ。

 あ~もう! とっとと帰りたい……。で、でも、いまの声にはどこかで聞き覚えのある気がしなくないし。

 ええいっ、ビビってる場合じゃない!

 もう一度扉を開けて確かめるっきゃないだろ?

 オレは扉を開けて、顔だけを空き教室に突っ込んで中を覗き見た。

 けれども、そこには人なんかいるはずもなく、さっき見た通りの殺風景な光景が広がっている。



「……やっぱり、誰もいないじゃないか」



 ということは、いまの空耳だったってこと?

 なぁ~んだ、ビックリさせやがって。幽霊がホントにいるんじゃないかって、内心ビクビクしているだけにどっと疲れちまったよ。

 まっ! 誰もいなかったんだし、ここにはもう用事はないな。さっさと扉閉めて、他の場所を探すとしよう。



「どこ行く気なの?」



 え? なにこの声?

 それは再び締めようとした扉の内側から聞こえてきたことだった――ってことは、空耳じゃなかったってこと?

 しかも、さっきと違ってハッキリと聞こえた声はどこかで聞いた記憶が……。



「こっち、こっち! 早く中に入って」



 などと、姿なき声は入室を促してくる。

 オレはその聞き覚えのある声に従い、勇気を振り絞って教室の中へと入ってみることにした。



「おーい、誰かいますかぁ~?」



 シーン……。

 空き教室は、そんな擬音が聞こえてくるかのように静まりかえっている。さらに言えば、オレの声だけが室内に反響していて、不気味さを醸し出していた。



「誰もいないの? いないよね? 返事なんか返ってくるわけもないし」

「…………」

「やっぱ、怖いなぁ~。早くウチに帰りたい」



 とはいえ、声の正体を確かめなければ意味がない。オレは姿なき声の主の正体を確かめるべく、ゆっくりと窓際の方へと近付いていった。



「……三田村君、やっと来た」



 そんなときだった――。

 再び姿なき誰かの声を耳にする。

 それと共に左のほっぺたのあたりを指らしきもので突っつかれた。



「ギィャャァヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ~!!」



 おかげで大絶叫。

 死ぬんじゃないかって勢いで飛び上がって転倒しちまったよ。

 こんな恐怖、いったい誰が驚かないって言うんだ? おかげで腰砕けになって、その場に倒れ込んじまった。



「たたたた、た、た、助けて! オレなんか殺してもなんの意味もないしっ……!」

「あれ? そんなに驚いた?」

「ギャーッ、なんか幽霊がオレの名前知ってるー!?」



 ……ん? あれ? なんで幽霊がオレの名前知ってるんだ?

 よくよく考えると、どっかで聞いたことのある声。さらに言うなら、ちょっと前まで一緒にいて、一緒に帰った気がする声だ。

 え? これってもしかして、もしかしなくても……?



「……は、春森?」



 気付けば、オレは最愛の彼女の名前を口にしていた。

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