第9話「春森と玖波の間でなんかあったっぽい?」

8-1.カノジョと彼女

「失礼しました」



 廊下に出ると同時に扉を閉める。

 ある日の放課後。

 オレが職員室を訪れたのは、日直の仕事の後片付けのためだ。学級日誌を返して、クラス全員から回収した進路希望調査票を担任に渡す。

 それが終われば、お役御免。

 あらかた片付いていたこともあって、相方の女子には帰ってもらっている。んまあ、最後まで付き合わせるのも悪いからって言うのが本音。

 なにより、オレには楽しみがある――それは、春森が終わるまで待ってくれているというシチュエーションだ。



「じゃあ、近くの公園で終わるのを待ってるから」



 ……なぁ~んて、男なら一度は言われて見たいじゃん?

 さすがオレの彼女! 男心をくすぐるような言葉を使ってくれてうれしい! 

 とにかく、早く春森の元へと急がないと……。オレは昇降口から校舎の外へと出ると、足早に公園へと向かった。



「ふっふ~ん♪ 春森はどうしてるっかな?」



 鼻歌交じりに公園へと急ぐ。

 いつもは駅近くの分かれ道で別れてバイバイって感じだから、今日は放課後デートに誘うのもいい。アイスクリームを買い食いしたり、ウィンドウショッピングに興じてみたり、できればオレの家に誘って……。

 嗚呼っ、なんかこう考えてるときって、メッチャ楽しくね?

 なんて言ってたら、園内に春森の姿を発見! 侵入防止用のバリカーのところで、顔を上向けて佇んでいる。



「……って、あれ? 誰かと話してる?」



 そのことに気付いたのは、山の形をした遊具――通称『タコの山』の影から姿を現したときのこと。

 春森に近付いていくにつれ、その正体に見覚えがあることを強く認識させられた。



「あれ? もう三田村先輩が来ちゃいましたか」



 と言われて、オレが認識した人物。

 ソイツは、先日の一件でオレ自身が迷惑を掛けたと感じている玖波その人だったからである。



「玖波っ!? なんでオマエがここに……?」

「いえ、たいしたことじゃないんです。三田村先輩が仰ってた大切な彼女さんがどんな方なのか興味があって、ちょっとお話を伺っていただけです」

「春森に興味?」

「話は終わったので、私はこれで失礼しますね」

「あっ! おい、ちょっと待て!!」

「それじゃあ、また!」

「待てって。玖波っ!」



 でも、玖波はオレが止めるのも聞かず、一方的に去って行ってしまった。

 なんだったんだ? アイツは……。

 そんなことより、玖波がいったい春森にどんな用事があったんだろう? いまはそればかりが気になる。



「ねえ、春森。玖波と何話したの?」

「たいしたことじゃないよ。三田村君ってどんな人ですかとか、どこが好きになったんですかとか聞かれただけ」

「本当にそれだけ?」

「フフッ、三田村君も案外焼き餅焼きなんだね」

「ち、ちがっ……!!」



 そうやって、話をはぐらかさないでくれよ。

 溜息ばかり出ちまうじゃねえか。

 でも、春森が玖波となにか話していたのは事実だ。そのことを考えると、額面通りに受け取っていいモノなのかどうか迷う。



「そうじゃなくて、なんで玖波と話す必要があったのさ?」

「三田村君も疑り深いね」

「そりゃあ、いきなり玖波が現れて、春森となにか話してるなんて気になるじゃん」

「本当に大した話じゃないよ?」

「……本当にホント?」

「うん、本当だよ」

「それならいいけど……」



 やっぱり、オレの思い過ごし?

 春森からは、嘘をついているような様子はまったく見受けられない。

 でも、いつもからかわれているからなぁ~……。そのことを考えると、どうにも疑いたくなっちまう。



「帰ろっか」



 そう言って、春森は公園の出口に向かって歩き出した。

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