8-3.恋愛シミュレーションごっこ
「キャラ恋愛ごっこしない?」
唐突になにを言い出すの?
あの日、春森はそんなことを言いだした。
少なくとも、オレたちは付き合っている――にもかかわらず、キャラ恋愛ごっこをしようだなんて意味がわからない。
そもそも具体的に『キャラ』ってなによ?
「春森……。オレたち、付き合ってるんだよね?」
「違う、違う。そういう意味じゃなくて、君が前に話してた恋愛シミュレーションゲームとかいうゲームにある『イベント』ってヤツをごっこ遊びするの」
「あ~そういう意味か」
「普通、遅刻しそうになっている女の子がパンを加えたまま道の角を曲がったら、誰かとぶつかってイベント発生だなんてありえないでしょ?」
「そりゃまあね」
「だから、そういうイベントをごっこ遊びとしてやるの」
「……やるっつってもな。いったいどうやってやるのさ?」
「今度のデートのときにシチュエーションとして行うの。たとえば、待ち合わせをもっとドラマチックにするとか、私たちの性格をぜんぜん別物にしてみたりとか」
「それって、端から見たら痛々しいカップルなんじゃ……」
しかも、人通りの多い場所でロールプレイなんかしたら、それこそどう思われるかわかったものじゃない。
「そっかぁ~。三田村君がやりたくないなら仕方ないか」
ところが、オレの気持ちなど察する様子がないのか、春森は突然シュンとなって落ち込んだ様子を見せ始める。
――もちろん、これは真っ赤なウソだ。
だって、春森はオレを焚きつけるためにわざとあざとい演技をしているんだもの。これに乗っかったら、オレは公衆の面前で羞恥プレイをせざるえなくなる。
だから、キッパリと断ろう。
「あのさ。簡単に言うけど、春森だって恥ずかしい目に遭うんだよ?」
「うん、知ってるよ」
「……それでもやるの?」
「もちろん」
なにか問題?
そう言いたげな表情が矢庭に現れる。
当然、オレからしてみれば、この提案に乗る気がしない。なぜなら、人前で恥を掻くことは間違いないからだ。
玖波との一件を聞き出したからとはいえ、これはリスキー過ぎやしないか?
「面白いと思うんだけどなぁ~」
と言って、明後日の方向とこっちを繰り返し見ながら同意を求めてくる春森。
念押しで言われても、こっちだって困るっての!
……はぁ~、仕方がない。ここは素直に春森に付き合ってやるか。
「――わかったよ。やるよ、やればいいんでしょ?」
「ホントっ!?」
「ただし、あまりにも恥ずかしいシチュエーションは禁止ね」
「え~? それがいいのに……」
「オレが恥ずかしいんだって!」
「そこを乗り越えたら、楽しいと思うんだけどなあ」
「とにかく、あまり目立つようなことはしないって約束するなら付き合うよ」
こうでも言っておかないと、また春森は何をしでかすかわからない。
あまつさえ、隙あらばオレをからかおうとしてくるって言うのに……。
「わかった。約束する」
「本当だよ? 絶対にしないって誓ってね?」
「しつこいなあ。ちゃんと誓うから、私のごっこ遊びに付き合ってよ」
なんて言ってるけど、本人は楽しむつもりなのだろう。
さて、どうなることやら……。
見えない彼女の行くすえ Ver2.0 丸尾累児 @uha_ok
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