第2話
城下町に入る門のところでシリウスと分かれて、家へと向かう。もう王都からの監察団は辺境伯様のお城へ行ったのかな。ざわついていた雰囲気が少し落ち着いていた。
家で母さんと薬草を仕分けしつつ、さっきのシリウスの様子を伝える。薬草はかなり採っていたから仕分けも一苦労だ。
「シリウスが……」
母さんはそう呟くと考え込んでしまった。ああなると母さんはしばらく反応しない。僕は母さんが考えるのをやめるまで、黙々と仕分けを続ける。それにしても多いや。ちょっと採りすぎたかな。でも納品を考えるとまた近いうちに薬草を採りにいかないと足りないくらいかも。そんなことを思いながら仕分けしていると、母さんが考えるのをやめたらしい。
「ユリアン、今日騎士団に行ったらシリウスの様子を父さんに伝えるのよ。もしかしたら魔物かもしれないわ」
「え、でも魔物は騎士団が定期的に間引いてない?」
「そうね、間引いているけど知らないうちに移ってきた魔物がいるかも知れないわ。そういったことを調べるのも騎士団の仕事なのよ。シリウスはあの森の住人だし、何か感じたのかもしれないもの。ちゃんと父さんに伝えるのよ」
「うん、わかったよ。薬草の仕分けは終わったから、僕はお昼食べて騎士団に行くね」
「ええ。ありがとう。監察団の方も来ているのだから粗相のないようにね」
「うん」
僕は母さんに仕分けした薬草を渡して昼食にする。今日は朝のうちにスープだけ準備しておいたからパンとスープでいいかな。パンは固い黒パンからスープがないとね。王都では柔らかいパンもあるって母さんから聞いたけど、本当なのかな。1度でいいから食べてみたいや。
そんなことを思いつつ食事を済ませて、朝残していた食器と一緒に洗う。いつもは母さんがやってくれるけど、薬を作り始めたらなかなか手を止めることができないから我が家では僕も食事や洗濯とか手伝ってるんだ。だから余計に騎士向きなスキルとか適正がでないのかなって思う。洗い物を済ませると、お城の騎士団へと向かう。僕の家は、お城の近くなんだ。緊急事態が発生したりしたらすぐに父さんがお城へ向かわないといけないからなんだよ。だから森へ行く門にはちょっとだけ遠いんだ。母さんがお抱え薬師なのもあって、うちは騎士団の他の家よりも少し大きい。本当は薬の調合ってお城でするんだろうけど、奥様とお嬢様が臭いがいやだって言ってお城に調合場所はないんだって。だから家で調合してるんだ。
僕はお城の正門ではなく、通いの騎士様やメイドさん達が通る門から入る。正門はお客様、今日だと王都からの監察団の方達が通る場所だから通っちゃダメなんだよ。門から騎士団の詰め所へと向かうと、僕以外の騎士の子供達が騎士様から稽古をつけてもらっていた。その中に父さんを見つけたから、僕は父さんの方へと向かう。
「父さん、今ちょっといいですか?」
お仕事中だから、話してもいいか確認をとる。これは他の騎士様に対しても一緒。僕は騎士ではないから当然だよね。
「ユリアンか。どうした?」
「今日、シリウスと森で薬草採ってたんですけど、シリウスが森の奥をしきりに気にしてて。母さんから、このこと父さんに伝えなさいって言われました」
敬語って難しいね。いつも父さんと話しているようにしゃべっちゃダメって言われてるから、丁寧にしゃべる。他の子たちも頑張ってしゃべってるんだけど、時々普通にしゃべっちゃうんだよね。。普通にしゃべって怒られてるところを見たことがあるけど、ゲンコツされてて痛そうだった。みんな敬語に苦労してるんだ。僕も時々普通にしゃべりそうになるもん。
「シリウスが……。わかった。ユリアンは今日は、団長の事務の手伝いに行ってくれ。執務室に補佐官がいるから」
「わかりました」
父さんから言われた通り執務室に行こうと方向転換すると、幼馴染のニクラスが走ってきた。
「よう、ユリアン。今日も稽古なしか?」
ニクラスは僕よりも2つ年上で大きいから、ちょっと威圧感。でも気さくで僕たち騎士の子供の中じゃリーダーみたいな存在なんだ。
「うん。今日は事務のお手伝いだって」
「そっか。お前も早く稽古に混ざれるといいな」
ニクラスはそれだけ言うと稽古用の剣を手に取り、稽古へと混じっていった。僕は遅れるといけない、と少しだけ急いでその場を離れた。僕は背中越しにみんなの気合の入った声を聴きながら、少しだけ羨ましかった。僕、本当に適正がなさ過ぎて悲しくなっちゃう。
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