スタンピード3

 陽が沈み、あたりが暗闇につつまれる。松明の明かりが村の家を照らし、フクロウの鳴く声が響く。普段なら村の家に明かりがともっているはずが、今は暗い。騎士と冒険者達は己の武器に不具合がないか、再度確認をし、森の方を見据える。


 騎士と共に村へとやってきた医師や薬師達は村の後方にテントを張り、薬などを分かりやすく並べている。念のため、けが人が出たときのために人が寝ることのできる場所も確保している。


「カサンドラ、そっちは大丈夫か?」


 声をかけたのはクラウスだ。己の妻に声をかけ、後方の確認をする。


「クラウス。ええ、こちらは大丈夫よ。怪我人が出たら、こちらへ回して。もし連れてくるのがきついようなら手分けして、迎えにいくわ。できれば村の中心に居てくれると、邪魔にはならないだろうから助かるのだけれども」


「そうだな……。そこはこの後全員に伝えよう。恐らく長時間の戦いになるはずだ。手が回りそうなら、松明の火を気にしてもらえると助かる」

「わかったわ。手分けして、注意するようにしておくわ。怪我をしないで、とは言えないけど一緒にユリアンの元へ帰りましょう」


「ああ。ちゃんと帰ろう」


 クラウスはそう言うと騎士や冒険者を村の中央に集め始めた。その後ろ姿をカサンドラは見つめていた。しばらくその姿を見つめた後、カサンドラは他の医師や薬師に松明のことや負傷者が出た時のことを伝えに行くのだった。



 村の中央に集められた騎士や冒険者の前に、各部隊の隊長が並ぶ。クラウスが代表して一歩前へと出た。並んだ者の顔を見まわす。


「現在のオーク達魔物まだ森からは出てきていないが、時間の問題だ。恐らくあと1刻もすれば森から出てくるだろう。まずは第1部隊から第5部隊が森と村の間で迎え撃つ。残りの部隊は各隊長の指示に従い、討ってでてくれ。冒険者の諸君は事前に取り決めていた通り2部隊に分かれて、騎士と行動を頼む。斥候担当の者は出来るだけ魔物の中心を見つけてくれ。見つけ次第、渡している笛を鳴らすこと。また負傷者は自分で動けるようであれば、村の後方にいる医師達の元へ行くように。動けないものは、出来るだけ側にいる者が村の中央まで連れて行ってくれ」


 クラウスの言葉にそれぞれが頷く。皆、真剣な表情で聞いていた。ミスは自分の命と直結することは、それぞれがわかっているのだ。


「明日の朝には城から第2陣が出る。それまでは何としても持たせ、後方からくる部隊と挟み撃ちをする。殲滅させるぞ!」


「おおっ!」と全員から声が上がる。クラウスが一歩引くと、別の騎士が前へと出た。


「では第1部隊から第5部隊はそれぞれ出発を始めてくれ。残りはギリギリまで体力を温存しておいてくれ」


 その言葉に合わせて、騎士や冒険者達が移動を始める。クラウスも先発隊となるため、部下と共に移動を始める。村から出たところで、森の奥から赤い揺らめきが増え始めているのが見て取れるようになっていた。


「予想よりも少しだけ早いか……?」


「いや、想定内だろう。だが数は予想よりも多そうだ。これは群れになっている魔物の種類も多そうだな」


「ああ。全員、戦闘態勢を取りならがら進め!魔物の数が多そうだ!早めの戦闘になるぞ!」


 クラウスは大声で後ろを歩く騎士や冒険者に指示を出す。その声に全員が気を引き締める。柄に手をかけ、いつでも剣を抜ける態勢になる。冒険者の中にいた付与魔術師は周囲の者に防御力を上げる魔法をかける。騎士団はあまり付与することをしないので驚くが、敵を目の前にしているためすぐに意識を前方へと戻す。クラウスは冒険者の魔術の使い方を見て、もしかしたらユリアンに向いているのかもしてないと思っていた。戻ったら、冒険者のような使い方もあることを教えてやろうと心に止めた。まずはスタンピードの制圧だ、と意識を戻した。


 戦闘を予定していた地点に到着した時には、魔物たちの姿がはっきりと見てとれるようになっていた。コボルトやゴブリンの中にちらほらと上位種になっているものが混じっている。ホーンラビットやスライムなどのランクの低い魔物も多くおり、上手く対処をしないと上位種に横から攻撃をされそうな気配だ。


「隊長さん、魔術師が後方から遠距離で魔法を叩き込むぜ。あの数だ、魔法の方が数を減らせそうだ」


「そうだな。ただ火系は森が燃えてしまう可能性がある。できれば風系だな」


「りょーかい。じゃ、そう伝える。タイミングの指示よろしく」


「ああ」


 側へやってきた冒険者の提案に乗り、数を減らしつつ掃討することにした。


「騎士団は上位種を優先!冒険者は後方からの魔法攻撃と回りの魔物の掃討を!」


 大声で叫ぶとクラウスは剣を抜き、掲げた。


「全軍、進撃開始!」


 クラウスの号令に合わせ、騎士も冒険者も雄たけびを上げながら魔物へと走りだした。

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