スタンピード2
騎士団が開拓村に到着した頃には陽も傾き始めていた。村長は騎士団の人数の多さに顔色を青白くさせた。
「なんてことだ。こんなに多いなんて……」
ボソボソと呟くその様子は幽鬼のように精気がなかった。側には村長の家族であろう女が寄り添い体を支えていた。
「その方がこの村の村長か?」
ユリアンの父であるクラウスが村長へと声をかける。
「は…はい。そうです」
「随分顔色が悪いが、どこか具合でも?」
「い…いえ。騎士様達がこんなにいらしたのが初めてで緊張しているだけでございます」
「そうか。だがこれから皆を避難させてもらわねばならぬ。しっかり気を持ってくれ。先に着いた冒険者から話を聞いていると思うが、オーガを中心としたスタンピードが発生した。進みはゆっくりではあるが、確認したところこの村へと向かっている。我らと冒険者はここを拠点に魔物を殲滅する予定だ。巻き込まれないよう、村人たちはこの先の村へ避難して欲しい。村までは冒険者が護衛をすることになっている」
「まさか…この村に向かっていると?そんなばかな……」
村長の言葉にクラウスの側にいた騎士が反応した。
「おい、お前。何か知っているな!」
騎士の言葉に村長は己が失言したことを知る。あからさまに変わった顔色に騎士達が警戒態勢に入る。
「村長、こちらで話を聞かせてもらおうか。そこの者は家族か?」
村長を支えていた女に声をかけると、頷くことで返してきた。
「では村長に代わり、村人を集め避難の準備をさせよ。勝手に村から出ることは許さん。護衛である冒険者と共に行動するように」
「は…はい」
女は慌てて村の家を回りだす。必要最低限の荷物のみ持ち村の中央に集まるよう伝えていく。スタンピードのことは伝えてはいないようだが、必死な様子に冒険者が来ていたことを思い出したのか、ほとんどの村人が大人しく従い、荷物を用意しだしていた。
村長は騎士達の張ったテントに連れていかれ、尋問を受けていた。拘束などはされてはいないが、回りを騎士に囲まれ観念したように話始める。
「隣国の者が、この国に移住したいからまずは居住するためにしばらくこの国のことを教えて欲しいと言ってきたのが始まりでした。ゆくゆくは王都の方へ行くが、まずはここでこの国のことを覚えてから行きたいというので、村へ住むことを許可したのです。日がたつにつれ、我々ならば懐柔できると思ったのでしょう。徐々に自分たちの本性を出し始めました」
「何者だったのだ?」
「彼らはこの国を内部から破壊し、乗っ取ろうとしていた隣国の騎士だったのです。我々が森から木を伐採し、村を広げていたのを隠れ蓑にし、森の奥へと何度か向かったようです。2~3日前に辺境伯様の城の方へと魔物が向かうように細工したと話していたのを聞きました」
「なぜ、すぐに辺境伯へ伝えなかった?城下に届け出ることはできただろう?」
「伝えたら村に火を放つと……」
「脅されたわけか。隣国の者はまだこの村にいるのか?」
「……います。村人にしたら小綺麗にしとるので、すぐわかるかと……」
村長の言葉に数名の騎士が確保に向かう。クラウスは横目でそれを見ると、残りの騎士達にスタンピードへの対応を指示する。恐らく夜の間に森から出てくるだろう。それまでに住人を避難させ交代で魔物へ対峙しなくてはならないのだ。
「村長、ひとまずあなたも村人と一緒に避難を。冒険者には現在、騎士の権限を与えてある。彼らの指示に従うように。決して逃げようなどとは思わないことだ」
「わかりました……」
村長は項垂れながら、テントから出ていく。1人の騎士が付いて行き、村人を護衛する冒険者へと引き渡した。
「クラウス、隣国の奴らは逃げてしまっていたようだ。冒険者達がこの村に入った時点で察知したんだろう」
「そうか……。仕方ない。だれか、城へ報告だけ行かせてくれ」
「そうだな。若手を1人行かせよう。残りは全力でスタンピードにあたるとするか」
「ああ。取り合えずは交代で少し休みをとってくれ。恐らく夜の掃討になるだろう。松明も確認しないとな」
「ああ、あとば冒険者達との連携の確認か。そっちはクラウスやってくれ。こっちで松明と交代で休みとらせておく」
「頼んだ」
騎士達はそれぞれの役割を果たすため動き始めた。そして騎士と冒険者達のスタンピードへの死闘が始まる。
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