スタンピード1

 辺境伯の城から、騎士団が開拓村に向けて出立した。1部隊10人で構成された部隊だ。全部で10部隊。後発隊も同じ部隊数が出る。先行して冒険者達も開拓村に進む者と後発隊と共に動く者といる。スタンピードには騎士団と冒険者であたるのが常だ。


 先行部隊の中にはユリアンの父と母もいた。薬師である母は、開拓村の中で負傷者や村人への支援に回ることになっている。後方支援部隊にはユリアンの母のように薬師や医師が5名ほどいた。物資を調達したりする者と合わせると20名程になる。


 今回は中核となる魔物がオーガという情報があり、編成部隊の規模が大きくなっていた。


「恐らく、上位種がいるだろう。早く村から住民を避難させないといけないな」


「ああ。オーガだけではないだろう。まず間違いなく手足となるゴブリンやオークも上位種交じりでいるはずだ」


 騎士達はスタンピードで襲ってくる魔物の予想を立てる。中核となる魔物によっては鎮圧に時間もかかる上、被害も甚大なものとなる。少しでも被害を抑えるためにできることを検討しながら進むのだった。


 一方の開拓村では、先に到着していた一部の冒険者が村長へとスタンピードについて話をしていた。


「だからぁ、オーガを中心とした魔物がこっちに向かってるって言ってるだろうが!あんたらはさっさと避難をしてくれ!」


「何を言っとるか!こんな辺鄙な村に魔物なぞこんわい!おぬしらこそさっさとこの村から出て行け!」


 お互いに主張を譲ることがないため、一向に解決する気配がない。そんな様子を見ていた村の女達が側にいた冒険者に声をかける。


「ちょいと、あんた。魔物がくるってのはどういうことなんだい?森に木を切りに行ったりすることがあるけど、誰もそんなもの見たことないって言ってるよ」


「あのな、森で出会わなくて当然だ。様子を見てたんだよ。たまたま来ただけの人間なのか、近くに人間が多くいるのかをな。スタンピードになるくらいだ、ずっと狙ってたんだろうよ」


「魔物がそんなに賢いわけないだろうに。心配しすぎだよ、あんた達」


「はぁーっ。今回は間違いなく上位種混じりだ。賢いに決まってるだろうが。低級の魔物なら騎士団が動くわけねぇよ。低級の鎮圧なら冒険者だけでもできるわ!規模もでかい上に上位種が中核になってんだ。騎士団も部隊をこっちに派遣してるよ。じきにここに到着するはずだ」


 冒険者の言った「騎士団」に口論を繰り広げていた村長が反応する。


「なんだと!馬鹿なことを言うな!騎士団がくるわけないかろう!」


「俺達は騎士団と連携して動いてんだよ。こんなこと冗談で言うわけないだろうが」


 呆れた様子で言う冒険者を村長は青い顔で見た。聞こえるか聞こえないか微妙な大きさの声で何やらぶつぶつと繰り返している。それを見た村の女がそっと、村長の背をさすり移動するよう促す。


「村長、顔が真っ青だよ。ちょっと落ち着こう。ほら、お茶淹れてあげるからね。それ飲んで」


 村の女に促され、村長は今にも倒れそうな足取りで家へと入る。村長を見送った女達もそれぞれに家へと入っていった。


「ちっ、なんてこった。そんなに悠長なことしてる時間はないってのに」


「だがあのままでは埒が明かないままだっただろうし、仕方ないさ。だが、村長の様子だと何か隠し事でもあるようだな。こんな辺鄙な村だ、何かしようにも税をごまかすくらいしかできないだろうけどな」


「言えてるな。あとはあるとしたら、何らかの犯罪者を匿っているか隣国の人間を淹れているかだろう。まぁ、じきに騎士団が到着する。その辺は騎士団が判断するだろう。俺達は今できることをまずはしようや」


「そうだな。この村の家の数や防衛の確認をまずは済ませるか。ここを防衛拠点にするだろうから、鎮圧に集中できるように先にできることやっちまおう」


 冒険者達はそういうと手分けして、村の入口からの各家の距離や柵の位置や強度、高さなどを確認していく。手際よく確認していく様子から、手慣れていることがよく分かる。決して家の扉をノックしたりはしないが、家畜の数や村の薪の数、畑の規模などでおおよその村人の人数を把握しているのだろう。村の男達はそんな冒険者を横目に村長の家へと集まる。残った村の女や子供達は家の窓から冒険者の様子をそっと覗くのだった。



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