スタンピード4

 魔物達の咆哮と騎士や冒険者達の雄たけびがあたりに響き渡る。冒険者の一部には魔物の咆哮に身を竦ませる者もいたが、側にいた者にかばわれ一旦撤退する。怪我をしてはいないが、すぐに動けない者はこの場では邪魔でしかない。とにかく魔物を殲滅することを優先するため、動けないものは一旦引くことを皆させていた。


「思ったよりも数が多いが、なんとかなりそうか……」


「いや、森の奥から出てくる魔物の上位種混じりが増えてきた。ちょっときついかもしれんぞ」


 クラウスの同僚が剣をふるいつつ森から出てくる魔物を見た。クラウスはゴブリンの中に魔法に特化したものや統率する立場にある上位種が増えてきていることに気づく。上位種は体力も攻撃力も通常の魔物を上回る。1体を倒す時間が格段に違ってくるのだ。スタンピードの場合は時間との勝負の部分もある。とにかく魔物の数を減らすことを優先するため、時間のかかる上位種相手はあまりしたくない、というのが本音だ。スタンピードでさえなければ、己の持つ力がどこまで通用するのかを試したいところである。


「斥候はまだ大元を突き止めきれてないか」


 クラウスは魔物を切り伏せながら、斥候の様子を探る。魔物と対峙し始めてすでに1時間程経過している。少しずつ、冒険者や騎士達に疲労も溜まってくる。そろそろ後ろに下げ、残りの部隊と一度入れ替えるべきか。周囲の様子を探りながら考える。後ろに下げるならば、経験の浅い冒険者や新人騎士だろうか。力のある魔物相手に、怪我をする者も増えてきている。やはり、一度下げるべきだろう、そう結論付けると手近にいた魔物を切り伏せ、声を張る。


「怪我をしたやつ、魔物の対処に遅れが出始めたやつ、一度下がれ!村に残っている部隊と交代しろ!」


 クラウスの言葉に自分が動けなくなっていると自覚している者は下がっていく。中には認めず残ろうとする者もいたが、側にいた年長者に怒鳴られ戻っていった。



 一方村に救助のためにいたカサンドラ達は、徐々に増える負傷者達に追われていた。


「傷が深い人はこちらへ!そこのあなた!その傷ならこっちよ!回復薬と魔法で回復させるわ!」


 カサンドラの声に従い冒険者も騎士も、医師や薬師の元へと移動していく。1人では動けないものには、回りの者が手を貸したり薬師が支えたりしてそれぞれの処置を施す。


「どんどん負傷者が増えてくるわね。薬はまだ大丈夫?今のうちに少し用意するわ」


「お願いします。先ほど騎士に確認したところ、森から出てくる魔物に上位種が増えてきているらしいです。おそらくもっと負傷者増えてきそうです」


「そう……。わかったわ。他に薬の用意に回れそうな人はいるかしら?」


「私が手伝います。」薬師の1人が手を挙げ、カサンドラと一緒に持ってきた薬草を調合していく。人数が多いため、調合の量も普段の倍以上の量だ。置かれている状況もいつもとは違うため、1回の調合での疲労度も違う。それでもスタンピード殲滅のため戦っている者のためにも皆、調合をしたり怪我の処置を施していく。


 残っていた部隊や冒険者も、先行した部隊から下がってきた者を見て前線へと進んでいく。前方には不気味に光る赤い瞳。なかなか減りそうにない魔物に臆する者はいなかった。後方に残っていた部隊は最初から経験を積んだものを多めに配置していたからだ。余が明けるにはまだ時間がかかる。少しでも魔物を減らすべく、剣を握りしめ進むのだった。

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