第11話
父さんと母さんが遠征に行った。僕は他の子供達と一緒に辺境伯様の所にお世話になってるんだ。エリーアス様もこのことには驚かれていて、いいことだとおっしゃっていたんだ。他の所だと、両親が騎士団に所属していても遠征の時にまとめて面倒を見てくれることはないんだって。同じ騎士同士で子供を預けあったりすることがほとんどらしいよ。ここは多くの騎士の家が僕の用に騎士と薬師の夫婦だったり、騎士とお城に仕える女官の夫婦だったりするんだ。女官の人はお休みの日以外は家に帰らなかったりするらしいから、結構ここでお世話になってるって聞いてるんだ。
「ユリアン。ここにいのね。食事の時間よ」
「アンネ。呼びに来てくれたんだ。ありがとう」
僕を呼びに来たのは幼馴染のアンネ。僕よりも4歳年上なんだ。アンネの家は僕の家のお隣で、僕の家と同じで騎士と薬師の夫婦なんだよ。所属する部隊が違うから、ここにお世話になる時期が違ったりするんだけど、今回は大き遠征だから一緒にお世話になってるんだ。アンネはここでメイドになるために下働きとかをまずは覚えてるんだって。
アンネによると、僕ってぽやぽやしてるんだって。だから目を離すと食事とかもちゃんとした量を取り損ねるから、見てないとって言うんだよ。僕、ちゃんと取れてると思うんだけどなぁ。あ、でもニクラスとかに比べると量はかなり少ないのかもしれない。ニクラスは沢山食べるんだよ。だから体も大きいんだ。アンネと同じ歳なんだけど、父さんはもっと年上に見えるって言ってた。体格がいいから、とかなんとか。だから辺境伯様のご子息にも気に入られてるって聞いたかな。僕もいっぱい食べたらニクラスみたいに大きくなれるかな。
「ほら!またぽやぽやしてる!早く行かないと、みんなに食べつくされちゃうわよ!」
アンネはそう言うと僕の手を引いて、食堂へと向かった。
食堂には辺境伯様の所に預けられた子供でいっぱいだった。いつもはガラガラなんだけどね。さすがに今回は規模が大きいから、子供用の食堂もいっぱい。騎士見習いの子がほとんどなんだけど、ちらほらアンネみたいにメイドになるためにいる子もいる。よく見たら、騎士見習いの子たちのお皿にいっぱいおかずが乗ってる!ああ!急がないと本当になくなっちゃうかも僕とアンネは慌てて列に並んで、食事を確保に行ったんだ。
なんとか自分の分を確保した僕たちは、空いている席を見つけて座った。普段、家では食べないような食事だから、ちょっと嬉しい。アンネも嬉しそう。だって豪華だもんね。僕の家もアンネの家も母さんが薬師だから、食事の大切さは知ってるんだ。父さんは騎士だから、しっかり食べないと体が持たないしね。だけど、お肉の種類とかはやっぱり違ってて、家で食べると固いんだよ。お城ではすごく柔らかいの。おいしいんだよ。
僕がお肉に感動しながら食べていたら、ニクラスが来てアンネの横に座った。
「ユリウス、アンネお前らの所はどっちにいったか聞いてるか?」
「どっちって?」
「開拓村か、明日出発組かってことさ」
「僕のところは今日出てるし、開拓村だと思うよ」
「うちもそうよ」
僕たちの答えを聞いて、ニクラスが複雑そうな顔をしたんだ。なんでそんな顔をするのかわからなかったけど、ニクラスはお仕えしているアルノルト様に何か聞いてるのかも。エリーアス様はここの騎士ではないから、あまり伝えられないこともあるんだろうし。もしかしたら何か大変なことがあるのかもしれない。ニクラスは黙ったままだから、僕不安になってきちゃった。
僕の食事の手が止まったのを見て、ニクラスが慌てて弁解をしてきた。
「あー、変なこと聞いて悪い。ただ単にどこ担当になったのかな、って聞きたかっただけだから。メシ、ちゃんと食えよ。お前そんだけじゃ体力つかねぇぞ」
それだけ言うと、ニクラスは僕たちの席を離れていつも一緒にいる見習いたちの所へと行った。
「なぁに、あれ。あんな風に聞かれたら気になっちゃうじゃない。今回は遠征に出た部隊が多いから、きっと大変なことなんだろうなって言うのはわかってたけど。ニクラスのところは後方部隊だし、多分明日出発のところなんでしょ」
アンネの言う通り、気になって仕方ないんだ。今思えば、父さんも母さんもシリウスの様子を知ってから、何か考え込んでたし。いつもよりも深刻そうに見えたんだよね。無事に帰ってきてくれるよね。きっと。なんだか不安で仕方ない。僕に出来ることは、無事に帰ってきてくれるようにお祈りすることだけ。
「ほらユリウス。心配なのはよくわかるけど、あなた王都からの騎士様にお仕えになったんでしょ。ならしっかりとご飯を食べて、明日に備えないと。父さん達、きっと無事に帰ってくるわよ」
「そうだね。アンネ、ありがとう」
「まったく、世話がやけるわね」
僕とアンネはお互いに不安を抱えながらも、なんとか食事を終えた。明日からは本格的にエリーアス様にお仕えになるから、アンネが言った通りしっかりと休んでおかないと。父さんと母さんが無事に帰ってくることを祈ってから、僕は寝室へ向かい休むことにしたんだ。みんなが無事に帰ってきますように。
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