少年と騎士
マカロン
第1話
僕の家の朝は早い。父さんは辺境伯様の騎士団にいるから、時間はまちまち。だけど僕と母さんは森へ薬草を採りに行くから、朝早くに起きて支度をしなければいけない。
「母さん。準備できたよ。今日は父さんの朝食は用意しなくていいんだよね?」
昨日から父さんは夜番でいないから、朝食はいらないはずだけど念のため母さんに確認する。時々騎士団で朝食を食べずに帰ってくる時があるんだよね。
「ええ。今日は帰ってくるのは昼過ぎになるって聞いてるわ。さぁ、私たちは早く食べてしまいましょう。今日は少し多めに採ってこないといけないから」
母さんにせかされるように朝食を食べる。本当はもっとゆっくりと食べたいけど、仕方ない。薬草が採れる森は僕の家からは離れているのだ。歩いて1時間程度の場所ではあるのだけれども薬草を摘んで家で下処理などをすることを考えるとのんびりとはしていられない。
「ごちそうさまでした。母さん、お皿は水につけておいて。僕帰ってきたら洗うよ」
「あら、ありがとう。ユリアン」
朝食を終えて、お皿は台所へ持っていったら森へ出発だ。
僕の家族は騎士団に勤める父さんと辺境伯様のお抱え薬師である母さんの3人家族だ。父さんも母さんも元々は王都出身。父さんが辺境伯様の騎士団に入ることができたので、こちらへ移住してきたと聞いている。僕は父さんと母さんがこっちに来てから生まれたから、どうして王都から出ようとしたのかなんて知らないけど。母さんは薬草なんかはこっちの方が多いし、効果が高いものが作れるから、王都から出てよかったとは言ってたけど。
実際に辺境だからなのか、薬草の種類は豊富なんだよね。母さんを手伝っているからか、僕も薬草には詳しくなった。薬を作るのも覚えている。母さんは師匠でもあるんだ。僕、剣はからっきしなんだよね。父さんは僕に騎士団に入って欲しいみたいなんだけど、父さんみたいに攻撃系のスキルや魔法は覚えてないし適正もない。どちらかというと、回復や補助に適正がある。だから騎士の子供としてはみそっかすなんだって。あ、これは父さんが言ったことじゃない。この辺境では男の子はみんな見習いとして騎士団の手伝いをするんだ。女の子は辺境伯様の奥様やお嬢様のもとでメイドの見習いをすることになってる。もちろんそんなことをしない子供いる。辺境伯様のところで見習いをするのは基本的に騎士の子供だけ。僕も午前中は母さんの手伝いをして薬師見習いをしてから、午後は騎士団に行ってるんだ。騎士向きの適正がないから、午後だけなんだけどね。もっぱら騎士様たちの身の回りのお世話や事務のお手伝いしかしてないんだ。幼馴染のニクラスは体格もよくて騎士向きのスキルや魔法の適正があるから、辺境伯様も騎士団長様も期待してるらしい。ちょっとだけ、羨ましかったりするんだ。僕も男の子だから、やっぱり騎士っていう職業はあこがれちゃうもの。
「ねぇ母さん。今日はなんだかみんな朝早いね。何かあるの?」
「あら、ユリアン。あなた知らなかったの?今日は王都の監察団が来るのよ。辺境伯様のところの査察と魔物や隣国の情勢確認にね」
「全然知らなったよ。だから朝からざわついてるんだね。あ、じゃあ多めに今日薬草を採らないといけないのって……」
「そう、王都からの監察団の方用よ。帰る頃までにこちらから国に納める分を用意しないといけないの。だからユリアン頑張って採るのよ」
「わかった。ならシリウス呼んでもいい?沢山採るなら、薬草運んでもらわなきゃ」
「そうね。呼んでもいいけど、門の外までしか一緒に居れないわよ」
「わかってるよ」
母さんから許可を貰ったから、早速シリウスを呼ぶことにする。指笛を吹けば、茂みからシリウスがひょっこりと顔を覗かせる。シリウスは森に住む狼の子供だ。以前、母さんと薬草を採りに来た時にけがをしてたシリウスを助けたら懐いてくれたんだ。それからシリウスは僕の相棒になったんだよ。真っ白な毛並みが綺麗で、自慢の相棒なんだ。
「シリウス、今日は一緒に薬草摘もう」
僕がそう言うと、シリウスは嬉しそうに吠えた。
母さんとシリウスとしばらく歩くと、いつも薬草を採っている場所へと着いた。いつも採りすぎないように注意しているから、まだ沢山の薬草が生えている。
「ユリアン、今日は気付け薬と回復薬用の薬草よ。毒消しの薬草も見つけたら採っておいて。そろそろ騎士団の方の薬も効果が薄れてくる頃だから、取り替えてもらわないと」
「わかった。じゃあシリウス、もう少しだけ場所を移動しようか。ここで母さんと一緒に採ったら、薬草採りすぎちゃうし」
「見える範囲で採るのよ」
「はーい。行くよ、シリウス」
母さんに返事をして、少しだけ場所を移す。視界にはちゃんと母さんが入る場所。いつも薬草を採りにくる森とは言え、魔物なんかがでないわけじゃないから注意は怠らない。危険があればシリウスも教えてくれるけど、頼り切ると1人で行動できなくなっちゃうもの。
「えーっと、この薬草は違う。こっちだね。あ、これは毒消しのだ」
薬草を見ながら間違えないように選別する。採るときは根本から。薬草によっては根ごと。きちんと処理をしないと効果がなくなるから、これは母さんに徹底的に叩き込まれた。冒険者だと、適切な採り方ができないから無駄になる薬草もあるらしい。だから母さんは自分が採りに来るんだ。他の薬師だと、冒険者に依頼してってこともあるんだって。まぁ母さんも薬の材料によっては冒険者に依頼することもあるって言ってたから、材料によるんだろうな。
ある程度薬草を採ったところでシリウスと一緒に母さんのところに合流する。時々シリウスが森の奥に視線をやるのが気になった。何かいるんだろうか。僕も目を凝らして見てみるけど、わからなかった。だけどシリウスが気にしているっていうことは何かいるんだと思うから後で母さんに言っておこう。
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