騎士たちの懸念
「団長、書類が届きました」
扉をノックし、室内へと入る。中には辺境伯をはじめ王都からの文官や騎士達、そして辺境騎士団の面々が揃っていた。従騎士のポールは先ほどユリアンから渡された書類を差し出す。
「今日、ユリアンが森へ行ったそうです。シリウスが森の奥を気にしていたと……」
ポールが団長であるグスタフへと耳打ちする。グスタフの反応に室内の空気に緊張が走る。
「そうか……。マンフレート様、やはり森へ斥候を出す必要がありそうです」
グスタフの言葉に辺境伯・マンフレートは軽い溜息をつく。先ほど王都からの監察団からも森の様子がおかしいようだと言われたからだ。
「スタンピードの予兆でなければよいのだが……。グスタフ、斥候を出し森の様子を確認させよ。また周辺の村にも確認をしてくれ。王都からこられたばかりだというのに、みなさんにはご不便をおかけする」
「いえ、こちらへ来る道中で森から出てくる動物が多かったので気になっておりましたが、杞憂であればいいのですが。斥候の返事を待ちましょう。われら騎士団もお手伝いさせていただきます」
一団を統率している騎士・エリーアスが答える。まだ年若い騎士ではあるが、実力者であり信頼もされているのであろう。他の騎士達もエリーアスの言葉に同意し、頷いている。
「しかしシリウス、でしたか?その者のことは信用できるのですか?」
「おお、そういえば皆様はご存じなかったですな。わが騎士団の騎士の息子が手懐けた狼で、森に住んでいるのでもしや異変を感じていないかと思いましてな」
「狼の名だったのですね。であれば斥候を出して正解かもしれませんね」
「ええ。事態によってはお手をお借りいたします。皆様方の滞在中ですが、離れに部屋を用意させていただきました。こちらは居住区にはしておらんもので、ご不便をおかけするが……」
マンフレートの申し出にエリーアスはにこやかに答える。
「いえ、こちらは政務用にされていることはわかりますので、お気になさらず」
「そう言っていただけるとかたじけない。では案内をさせますので、部屋でくつろいでくだされ」
マンフレートは後ろで控えていた騎士に案内をするよう指示する。
「ではご案内いたします。こちらへどうぞ」
騎士の案内に従い、エリーアスや王都から来た騎士や文官は部屋を出ていく。執務室に残っているのは辺境伯の騎士のみとなった。
「しかし王都からの監察団が来たタイミングで森に異変とは……」
「そうですな。スタンピード発生の可能性を踏まえた上で、編成をしておきます。こちら側よりも開拓村の方へ魔物が行く可能性もありますので、部隊をわけておく必要がありますな」
「うむ。編成はグスタフにまかせる。騎士達の子供を受け入れておく準備もしておく必要があるな。クラウディアに準備をさせるので、細かいところはレオポルトとアルバンとアデリーナで詰めてくれ」
「かしこまりました」
「ただの杞憂であってくれればいいのだがな」
そう呟いたマンフレートの言葉に異を唱える者はいなかった。一度スタンピードが起こってしまえば、たとえ騎士達がどんなに屈強であろうとも無事ではすまないのだ。開拓村やこの城下町もどれほどの被害を被ることになるか。できることは、被害を最小に治めることができるよう準備をすることだけだ。最悪を想定し、それぞれがすべきことをするために執務室を後にするのだった。
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