スタンピード6
開拓村にいた医師や薬師達は負傷者の手当をしながら、村の外の様子が変わったことに気づいた。様子を見に行こうにも、負傷者が多く手をあけることができない。どうにか様子を知ろうと、動けそうな騎士に確認を依頼する。
「カサンドラ、そちらはどうだ?」
「こっちはなんとか終わりそうです。ただ、思ったよりも重傷者が多いですね。これはしばらくここから動けないのでは……」
「そうだな。制圧が終わってもしばらくは我々はここに残らないといけないだろうな」
医師とカサンドラは救護所にしている仮設の中を見渡す。そこにいる騎士はみな、かろうじて意識はあるが動けそうにはなかった。それぞれに薬や治療を施していると、外がざわついていることに気づきカサンドラが様子を見に出て行った。
そこにいたのはすでに事切れたクラウスの姿だった。側には負傷しながらも必死にクラウスを連れてきた騎士がいた。
「噓でしょう?クラウス……」
呆然とするカサンドラに、何も言えず騎士はただ側でカサンドラを見ていた。カサンドラはクラウスと一緒になった時にいつかはこんな日がくることは予想していた。ただカサンドラが予想していたよりも早かった。薬師として従軍している以上、ここがまだ安全になってはいないことは分かっていたため、取り乱さずにクラウスを連れ来た騎士を見る。
「どうしてこの人に矢が刺さっているの……?オーガにやられたにしては矢の位置がおかしいわ」
涙をこらえて確認しているのが、誰が見ても明らかで騎士も自分の思いを抑えて答える。
「オーガと対峙している時に矢が飛んできたんだ。皆、オーガの上位種に警戒をしていたから矢が飛んできたことに気づかなかった」
「そう……。ここまでクラウスを連れてきてくれてありがとう。今、向こうはどうなの?」
「想定していたよりも数が多い。クラウスが倒れたことで、前線が崩れた。ここにオーガがくるのも時間の問題だろう。実際に取りこぼした奴がちらほら来ている。私も向こうに戻って、抑えに回らないと。そろそろ城から後発隊が出ているはずだ。何とか持ちこたえないとと思っている」
「わかったわ。念のため、ここも移動した方がいいのかしら……。でも動かせない人達が結構いるのよ」
カサンドラの言葉に騎士は顔をしかめる。思ったよりも重傷者が出ていることが分かったからだ。何としても持ちこたえないと、と気合をいれる。
「何とか抑えるように動くが、取りこぼしは増えるかもしれん。そっちで何人か足止めだけでもできそうな奴はいるか?」
「いえ。ここにいるのはみんな動けないわ。動けていた人たちはさっき、門の方へと向かったもの。……私達も覚悟はしておくわ」
そう言ったカサンドラの視線の先にはオーガが門の所へやってきている姿が映っていた。かろうじて門の周辺にいた騎士や冒険者が対応しているが、これから増えるかもしれない、と考えると時間の問題では、と思っていた。
「くっ……。こんな近くまで来てしまっているか。私もあちらの加勢に向かう。無理しないで、逃げることも考えてくれ」
「先生達に伝えるわ。ありがとう」
騎士はカサンドラの返事を聞いて、門へと駆けていく。カサンドラはクラウスに布をかけ、目を閉じる。数十秒ほどそうしてから、仮設の中へと戻り騎士の言葉を医師たちに伝えるのだった。
少年と騎士 マカロン @macaron_ron
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