第5話
ライナルト様の弓の指導が終わって、昼食をとるために騎士団の食堂へと向かう。騎士団の食堂は見習いも使えるんだ。ここでの食事は辺境伯様の騎士団の予算から出ているらしいので、騎士も見習いも基本的に無料なの。例外はこの騎士団を退団したりした人への慰労会とかをしたときかな。ちょっとだけ参加者からお金を徴収するんだって聞いてる。見習いからはとらないんだけどね。歓迎会とかはしないんだって。それはみんな各隊で個別に飲み会してるらしいよ。騎士団の食堂でする慰労会は規定があって、その規定に当てはまる人が対象なんだって。
食堂はいつも人がいるんだ。騎士団の人達はみんな同じ時間に食事をするわけじゃないからね。交代のあととかその部隊によって違うの。今日は他の見習いの子たちとは時間がずれちゃったみたい。仕方ないので、1人で食べよう。
食堂の料理人から食事を受け取って、空いている席へと座る。今日のご飯、美味しそう。僕の大好きなシチューだ。野菜がゴロゴロしてるシチューが大好物なんだ。冷めないうちに食べちゃおう。
僕が黙々と食事をしていると、食堂の入口付近がざわざわしていた。何だろう、と思いながらも食べることはやめない。ちゃんと食べておかないと午後から持たないもの。耳だけざわついている方へと意識を向ける。どうやら、王都の人達が食堂に来たみたい。
するとなぜか僕が食事している席に1人やってきたんだ。
「君がユリアンかい?」
王都の騎士様だ。
「はい。そうです」
声をかけられて慌てて立ち上がる。食事途中だったから立つのが遅れてしまった。口に食べ物が入っている状態よりはましだよね……?
不敬なことにはなっていないろうか、と不安になりながら立っている僕に「食事の邪魔をしたようだね。座って」と優しく声をかけてくださった。
「急にすまないね。君が狼の子と仲がいいと聞いたのでね。気になってしまって。私は王国騎士団のエリーアス・ギーズベルトだ」
「ユリアンです。狼の子ってシリウスのことですか?僕の相棒なんです」
「おや、相棒なのか」
「はい。森で怪我をしていたのを助けてあげたら懐かれて。いつも母さんと一緒に森に行く時には呼んでるんです。シリウスがいると魔物や獣に警戒してくれんですよ」
僕はエリーアス様がシリウスのことを気にしているのが嬉しくって、シリウスのすごいところや可愛いところを一生懸命に伝える。熱を入れすぎたせいか、途中でエリーアス様が笑してたような気がする。僕、失礼なこと言わなかったかな。ちょっと不安になっちゃった。
「ところでユリアン。君はいくつだい?」
「僕ですか?8歳です」
「ふむ。もう仕える騎士は決まっているのかな?」
「いいえ。僕、魔法の適正が回復とか補助系統ばかりなんです。スキルも攻撃系統はほとんどなくて。母さんから薬師の手ほどきを受けているので、多分このままいくと薬師になるんだと思います。僕を従騎士見習いにしてくださる方は多分いないので……」
僕はエリーアス様に言いながら、だんだん気持ちが沈んできてしまった。間違いなくこの辺境騎士団では僕は騎士にはなれないんだ。ここでは攻撃系統の魔法やスキルがないと、いけないもの。
「そうか……。なら私がここにいる間だけでも、私の側で見習いをしてみないか?君の魔法やスキルの適正も詳しく見てみたいからね。監察が終われば王都に戻ってしまうから、本当に短い間になるけどね。あ、もちろん辺境伯やこちらの騎士団長には許可を得ておくから」
エリーアス様の言葉に思わずまじまじとお顔を見てしまった。
「いいんですか?僕、あんまりお役に立てないと思いますけど……」
「ああ。こちらと王都はまた違うからね。もしかしたら関係のない私が見たら違う発見があるかもしれないだろう?」
エリーアス様がおっしゃった通りかもしれない。もしかしたら、エリーアス様の側で違う道が見えてくるのかも、と思った僕は「お側に仕えさせてください」って返事してたんだ。
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