第9話

 朝から騎士団の詰め所がざわざわしていたんだけど、離れの方もざわざわしだしていた。僕が色々と説明をされている時も、廊下をバタバタ走る音が聞こえてたんんだ。本当はこんなところまでざわざわしないはずなんだけど、何かあったのかな?


 僕が気になったようにエリーアス様も気になったようで、ナータン様が確認に出られた。僕はナータン様が戻ってくるまでの間に、エリーアス様やナータン様が書き記された紙を見て、分かるところへの補足を入れる。難しいことはわからないけど、森の様子や薬草の生息については少しだけ分かるからね。


 エリーアス様もナータン様もとても几帳面な字で、綺麗な字だった。王都の騎士様だと綺麗な字なのかな。騎士団長様の字も読みやすくて綺麗だと思ったんだけど、それ以上に綺麗な字だったんだ。あ、もしかしてお二人とも貴族だし小さい時から字の練習とかされてたのかな。確か、貴族の子供は小さな時から色々な勉強をするって聞いた気がするよ。僕ももっと字の練習しないと。横に書いた字、読めるかな。心配。


 色々と書き込んでいるうちに、ナータン様が戻ってらした。ちょっと慌ててる感じ。僕、ここにいてもいいのかな。そっと様子を伺う。



 「ユリアン、こちらへ。ちょっと大変なことだから、君の父上も関係するからね」


 そう言って、エリーアス様が僕を呼んだ。書き込みの手を止めて、僕もエリーアス様の側へと行く。父さんも関係するってなんだろう。もしかして遠征の準備していたことも関係するのかな。


 「ナータン、報告してくれるかい?」


 「はい。斥候がどうやら戻ってきたようで、その報告内容のせいのようです」


 斥候が出てたんだ。母さんに言われて、シリウスの様子を伝えたからかな。きっと森に向かってたんだよね。


 「やはり、スタンピードのようです。どうも開拓村の方へ向かいそうだとのことでした」


 「え、スタンピードですか?ここの森の奥だとオークとかいるって聞いてます」


 僕の言葉にお二人ともビックリした顔で、こちらを向いた。僕もビックリしてる。スタンピードって魔物の暴走でしょ。コボルトとかからまだ制圧しやすいって聞いたことあるけど、オークは大変だって聞いてるもの。スタンピードになるくらいだから、きっと数も多いよね。上位種もいるのかもしれない。たまに冒険者がオークを発見して討伐してるって聞くもの。開拓村だと、常駐してる騎士っていないはず。父さんが自警団がいて、騎士団は巡回して魔物を間引きしてるんだ、って言ってたもの。すごく大変なことなんじゃない?


 そう思ったら、父さんと母さんが遠征の準備していたってことはシリウスの様子から、スタンピードの可能性を考えてたってことだよね。父さんとかあさん、もしかしたら開拓村の方へ向かうのかもしれない。大丈夫かな。


 「そうか。オークがいるのか。上位種がどのくらいになるのか……。救いは向かう先が分かっていることか。対処しやすいが、どのくらいの速さで進んでいるかだな」


 「報告ではまだそこまで進んではいないとのことでしたので、今日中に先発隊が出るそうです。明日の朝早くに後発隊を出して挟み込む予定だそうです」


 ナータン様が騎士団の予定まで確認してこられていた。エリーアス様と王都からの騎士はどうするか考えてらっしゃるの。協力はすることは伝えてるそうなんだけど、勝手に協力はできないから、辺境伯様から要請がないと出られないんだって。多分、後始末のお手伝いになるだろうって話みたい。


 お二人が話をされているの側で、ハラハラしていたら扉をノックする音が聞こえた。


 「ユリアン、開けて確認してくれるかい」


 ナータン様に言われ、僕が扉を開ける。そこにいたのは父さんだった。


 「父さん。どうしたの?」


 「ああ、ユリアン。ご挨拶とこの後のことでちょっとな」


 「エリーアス様に取り次げばいいんだね。エリーアス様、僕の父さんが来てるんですけど中に入ってもいいですか?」


 「ああ、入ってもらってくれるかい」


 「はい。父さん、入って大丈夫だって」


 僕が扉から少しずれると、父さんは中に入りエリーアス様の前へと立った。そして僕をよろしくお願いします、っていう挨拶とスタンピードのことについて話を始めた。僕はナータン様にこういう時の言葉の使い方について教えて貰っていた。こういう時は父さんじゃなくて、父って言うんだって。本来なら父さんに所属とか誰なのかを名乗って貰わないとダメだよ、って注意も受けた。基本的に同僚でない限りはきちんと先触れや約束があったうえで訪問するから、急な来客の場合は確認が必要なんだって。今回は僕の父さんだから問題ないけど、誰なのかわからない状態で扉は開けないことって言われたんだ。こうして丁寧に教えてくれるから、僕もわかりやすいんだ。


 父さんとエリーアス様の話が終わったようで、父さんが僕に声をかけてきた。


 「ユリアン、私と母さんこの後開拓村に向けて出ることになった。後で母さんがいつものように詰所にお前の荷物を持ってくるから、父さん達が戻るまでは他の見習い達と一緒にこちらにいてくれ」


 「うん。分かった。父さんも母さんも無事に帰ってきてね」


 「ああ。ちゃんと帰ってくるさ。では、エリーアス様、ナータン殿、息子をよろしくお願いいたします」


 「しっかり預からせていただく。ご武運を」


 父さんはエリーアス様とナータン様に頭を下げると、部屋から出て行った。僕は父さんと母さんの無事を祈りながらその姿を見送ったんだ。スタンピードだから、多分殲滅するまで帰ってこれないだろうから、1週間くらいはかかるのかもしれない。開拓村の人たちを避難させたりとかもあるだろうし。後始末とかもあるもんね。寂しいけど、父さん達が帰ってくるまでに少しでも色々なこと覚えてビックリさせちゃおう。そう切り替えて、寂しさを振り切った。


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