⑤
* * *
「神はここにいたのね……」
そう呟いた瞬間、エリザベートが顔を真っ赤にして、申し訳なさそうに両手を振る。
「そ、そんな……神だなんて……。お、おこがましいです」
「だってこれ……すごいわ……!」
レティーツィアは目の前に並んだ品を見つめて、何度目かの
休日――。約束どおり、レティーツィアのタウンハウスにやってきたエリザベートは、レティーツィアの下にも置かぬ
開いて――言葉を失う。そこには、先日レティーツィアが予想したとおり、世界六国の尊き方々をイメージしたハンドメイドのアクセサリーがズラリと並んでいた。
そして彼女の手首には、あの組紐と天然石のブレスレットが。
闇を司る国、アフェーラ。日本と中国を足して二で割ったような文化を持つ国で、民族
攻略対象の皇子は、ユエ・シュオル・ディ・アフェーラ。アフェーラの古語で月を意味する名前だそうで、夜のように美しい
無表情で
レティーツィアはゴクリと息を呑むと、震える指で金色に輝くブレスレットを示した。
「これ、リヒト殿下をイメージしたブレスレットね……?」
「ええ。シュトラールの御方のものは、毎回一番悩むんです。これもすごく悩みました」
エリザベートが、ブレスレットをケースから取り出して近くで見せてくれる。
「リヒト殿下は華やかでお美しい方ですけれど、殿下ご自身は
難しい顔をして、「いえ、私の変なこだわりでしかないんですけど」と肩をすくめる。
「使うのは私なので、殿下のご趣味である必要はないんです。わ、わかってるんですよ?でも、あまりに
「いえ、
金のハーフバングルタイプのブレスレット。細く華奢で、女性の手首を
エリザベートの言うとおり、リヒトは輝かんばかりにゴージャスな美形だが、たしかに本人は華美を好まない。より実用的でごくシンプルなものを好む。
ただ、エリザベートの身分でそれを知るのは、とても難しい。
学園では、制服以外のものは国が用意した美しい一級品を使用している。飾り
つまり、学園でのリヒトは、やはりゴージャスでキラキラなのだ。
(どうやって、それを知ったの? この子……)
すごいとしか言いようがない。
リングも、イヤリングも、アンクレットも、チャームも、リヒトのイメージのものは、『よい素材を使ってごくシンプルに』を心がけているようだ。
しかしそれでも、たしかにリヒトをイメージしているとわかる。シンプルながらも光る
ヤークートのラシードをイメージしたものは、すべてがアラビアンなデザイン。本人が派手好きなのもあって、赤がより
キュアノスのクレメンスをイメージしたものは、素材の
ヴェテルのセルヴァをイメージしたものは、白と温かさをコンセプトにしているようだ。ヴェテルが海が凍りつくほど寒い国なのと、セルヴァの優しさを表現しているのだろう。
エメロードのリアムをイメージしたものは、
そして――アフェーラ。
「見れば見るほど、
黒に見えるダークブルーのホークスアイ。光の加減によって青銀の筋が現れ、煌めく。静かな深い輝きを放つ黒水晶とともに、ユエを表現するにはもってこいの石だ。
そして日本の――いや、アフェーラの伝統工芸を
(ああ、本当に素敵……。何時間でも見ていられる。身に着けたいのは、もちろんリヒト殿下のものだけれど、このまま六種ワンセットで飾っておきたい素晴らしさよね……)
正直、ドストライクだ。これは、なんとしても
「ま、街を歩いても、六色展開されてる物ってあまりなくて……。尊き方々のイメージの物も、本当に少なくて……。ここは学園島ですよ? 六国の人間が一堂に集まる場所です。そ、それなのに……」
作品を見られているのが恥ずかしいのか、エリザベートがもじもじしながら言う。
「でも、みなさまは、それを不思議に思われないようなんですよね。だから、私と違って、みなさまは尊き方々をイメージした物や尊き方々のお色の物が欲しくならないのかなって。私だけなのかなって」
「わかるわ……」
ヲタクとは、『推し』っぽいものを無意識に探してしまう生きもの。
『推し』カラーの物で、身の回りを固めたりするのは、基本中の基本だ。
イメージグッズは難しいにしても、雑貨の六色展開ぐらいはもっとあってもいいはずだ。
ヲタク趣味ではなく、単純に自国のカラーの物を欲しがる者も必ずいるはずなのだから。
(あら? でも、それならすぐにでもできるんじゃない?)
アーレンスマイヤー家が出資している商会のほうで、なんとかならないだろうか?
(そういう商品を仕入れることができたら、『推し』を持つ子が探しやすくなるかも?)
自国のカラーではない特定の色を集めている――もちろん全員がそうだとは言わないが、ヲタク趣味を持っている子を探す一つの指針にもなるだろう。
「わたくしも思っていたの。少ないわよね? 世界六国の尊き方が集まる学園島なのに。尊き方々をイメージした物は難しくても、六色展開ぐらい……」
「そ、そうなんです!」
理解を得られたことが嬉しくてたまらないといった様子で、エリザベートが頷く。
「あまりにないので、その……自分で作るしかなくて……」
「それで、ここまでの物を……すごいわ……!」
レティーツィアはアクセサリーをケースに戻し、姿勢を正してエリザベートを見つめた。
「あの、エリザベートさん。これ、買い取らせていただけないかしら? も、もしくは、同じものを作っていただくことは可能かしら? もちろん、お代はお
「あ、もちろん、材料費さえいただければ、お作りできます。こんなものでよければ」
エリザベートがこくこくと首を縦に振る。
「……なんですって?」
しかし喜ぶよりも先に――その聞き捨てならない言葉に、レティーツィアはムッとして眉をひそめた。
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