⑧
「よう、リヒト!
校舎に足を
いろいろと考え込んでいたレティーツィアはビクッと肩を震わせ、慌てて顔を上げた。
「……ラシード……」
「あそこまで常識がないと、いっそ
うんざりした様子で眉を寄せたリヒトの肩を、燃える炎のように赤くクセのある
ラシード・ムスタファ・アブドゥル=スレイマン・ヤークート。
六元素は火を司る国――ヤークートの第一王子だ。
赤がポイントで入った純白の制服が、
そのすぐ後ろに
イザークとは違って本当に人がよく、明るく、社交的。いわゆる『わんこ属性』だ。
だが、敵に対しては
「災難だったな。レティーツィア
「っ……も、もったいないお言葉ですわ。ラシード殿下」
「ん? どうしたどうした、真っ赤になって。オレに会えたのがそんなに嬉しかったか?はははっ!
その
(あぁっ! ラシード殿下……! 今日も、なんて理想的な『受け』っ……!)
「何が戯れだ。オレは本気だ」
「余計悪いです。それに、『後宮に部屋を』だなんて。レティーツィアさまはリヒト
「ははっ。馬鹿言え、アーシム。冗談でも『妻に』などと言ってみろ。オレの身が危ない。およそ現実味のない『後宮に部屋を』だから許されているんだ。そうだろう? リヒト」
「……なんのことだ」
リヒトが表情を一切変えることなく、ラシードの意味深な視線をサラリと
そんな二人のやりとりを、しかしレティーツィアは眉を寄せたままのアーシムに夢中でまったく聞いていなかった。
(ご、ごめんなさい! 私なんかがあんなお言葉を
前世では、キャラクターの関係性にも激しく萌えるタイプだったため、キャラクターとして大好きな『推し』と、関係性がたまらなく好きな『推し
例に
何を隠そう、ヤークートの主従こそ、その『BLの推しCP』だった。
(ああ! この不用意な発言で、今夜ラシード殿下はお仕置きを受けるに違いない……!っていうか、お仕置きを受けてください! 夜、二人きりになった
ああ、たまらない。レティーツィアは真っ赤になった顔を両手で多い、小さく呟いた。
「と、尊い……!」
アーシムの
「たしかに、少し妙でしたね。王族に対する礼儀をご存じないとは」
その声に、妄想の世界に旅立っていたレティーツィアはハッとして視線を戻した。
「特別に二年からの編入を許されたような人物が。そんなことありえるのでしょうか?」
どこまでも清々しい春の朝の空のような髪が、ふわりと揺れる。
「クレメンスか」
水を司る国――キュアノスの皇子、クレメンス・フォレミオン・リド・キュアノス。
火を司るヤークートのラシード王子とは対照的におっとりもの静かで、とても
髪と同じ色の瞳はいつも穏やかで優しく、森の中の静かな泉のような皇子だ。
「ごきげんよう。レティーツィア嬢」
「ご機嫌麗しゅう存じます。クレメンス殿下」
優雅に一礼し、レティーツィアはクレメンスの後ろに
(ああ、レアさまっ……! そして、アレクっ……!)
立場はほぼレティーツィアと同じ。キュアノスの公爵令嬢でクレメンス皇子の婚約者だ。
そして――クレメンスとレアの後ろに控えるのは、アレクシス・ネストル。
クレメンスの
ただそれだけに、
実はキュアノスの攻略対象は、皇子のクレメンスではなく、このアレクシスだ。
(ああっ……! 『NLの推しCP』……!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます