⑨
レアの
実は二人は
身体が弱く、ほとんど外に出ることができなかったレアに、アレクシスは毎日花を届け、
『頑張って病気を治したら、レアをお
『もちろん。ずっと傍にいるよ。世界一幸せにしてあげる。だから、頑張って』
だが大人になるにつれ、幼き日の約束はしょせん夢物語であったのだと知ることになる。
アレクシスにはレアに
すべてを裏切り、捨てて――恋に飛び込むことなどできなかった。
アレクシスルートではレアが主人公のライバルとなるわけだけれど、レアはクレメンス皇子の婚約者。そもそもアレクシスと
つまり、どのエンドを
(っ……! 切ないっ……!)
それでもアレクシスは、レアの傍にいるのだ。クレメンスの騎士として。クレメンスの婚約者であるレアを守っているのだ。本当の自分の心を、押し殺して。
真面目で堅物な男の――禁断の恋。
必死に自分を律しながらクレメンスとレアのために尽くす姿は、涙なしには見られない。
(ああ、もう……! 二人が並んでいるだけで、泣いてしまいそう……!)
胸が痛いほど熱くなって、レティーツィアはグッと奥歯を噛み締めた。
アレクシスがレアへの
それが悲しくて、切なくて、つらくて、やるせなくて『二人は自分が幸せにする!』と、前世では二次創作に励んだ。レアとアレクシスが幸せになる物語をとにかく書いて書いて書きまくったのだけれど。
(ああ、レアさま……! アレク……!)
この世界でも、二人のために尽くしたい。二人を幸せにしてあげたい。
そのために――いったい自分に何ができるだろう。
(考えなくては……! 二人のためにできることを……!)
二人の姿に胸を震わせながら決意を新たにしていると、レアがレティーツィアの前まで来て、気遣わしげに瞳を揺らした。
「見ておりましたわ。レティーツィアさま、どうかお気になさいませんよう……」
「え……?」
なんのことかと目を見開き、だがすぐにマリナに冷たくあしらわれたことだと気づいて、レティーツィアは唇を綻ばせて、首を横に振った。
「ああ、大丈夫ですわ。レアさま。わたくし、全然気にしていません」
実際、驚いたけれど傷ついてはいない。不快に思ってすらいない。ゲームのシナリオを大きく裏切る展開に、これからどうすればと
「編入したてでただでさえ心細いでしょうに、彼女には『前代未聞の』なんて形容詞がついてますもの。前日に優しくしてくださった方に
「……まぁ……」
「きっと、
にっこり笑うと、レアが「なんてお優しい……」と頬を染める。
「わたくしだったら、泣いてしまっていたかもしれませんわ」
「あら、それを
レアの細くて柔らかい白い手をそっと両手で包み込んで、目を細める。
「レアさまを傷つけることは、たとえクレメンス殿下でも許しません」
レティーツィアの男前発言に、レアが嬉しそうに――少し照れくさそうに微笑む。
「これはこれは、気をつけないといけませんね。レアを泣かせたら、レティーツィア嬢に
「水のとレティーツィア嬢の対決だったら、普通にレティーツィア嬢が勝ちそうだな」
ラシードがからかうように笑って、クレメンスの胸をトンと叩く。
(ああ、視界が幸せ……!)
レティーツィアはブルリと身を震わせると、そっと両手で口もとを覆った。
『推し』と、『BLの推しCP』と『NLの推しCP』が勢ぞろいしているなんて。
高貴な方々は、ただ歩いているだけで美しい。後ろ姿ですら、輝かんばかりだ。
(ああ、私……本当に『六恋』の世界にいるんだ……)
画面の外から
こんなに素晴らしいことが、ほかにあるだろうか。
ギュウッと、両手を胸の前で握り合わせる。
やはり、願いは一つだ。『推し』――理想のキャラクターの幸福な人生を見届けたい。
『BLの推しCP』の二人をつぶさに観察し、それをもとに妄想を繰り広げたい。
『NLの推しCP』の二人のために現実でもできることはすべてするけれど、力
要するに――『推し』たちを思う存分愛でていたい! それだけだ!
(そのために、このポジションは絶対に失えない……!)
公爵令嬢の『身分』と『財力』はもちろんのこと、この『推したちとの良好な関係』も、絶対に失うわけにはいかない。
(そうよ。せっかくこの世界に転生できたのだもの。最高の萌えを思う存分
リヒトにはヒロインと幸せになってもらって、自分は破滅することなく円満婚約解消!
公爵令嬢のまま、ほかの『推し』たちの幸せも全力でサポートする!
やってみせる。どんなに困難だろうと『推し』たちのためならば!
「……っ……」
レティーツィアは決意も新たに、尊い方々の背中を見つめた。
どうやら、シナリオどおりには進んでいないようだけれど――。
『推し』たちの幸せのために。
幸せになった『推し』たちを愛で続けるために。
最高の『萌え』を死ぬまで
「目指せ、破滅回避」
そして、(自分にとっての)大団円。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます