⑦
その金の双眸はマリナではなくレティーツィアへと向けられていて、マリナは――いや、レティーツィアも驚愕に目を見開いた。
「教室まで一緒に行くのだろう? レティーツィア」
「えっ……? そ、それは、そうですが……」
「ならば、早く来い」
レティーツィアの戸惑いをよそに、リヒトはそれだけ言うと、さっさと歩き出す。
レティーツィアは「は、はい!」と
「ッ……! リ、リヒトさま! どうしてっ……!?」
マリナの
もちろん、それはリヒトにも聞こえているはずだ。しかし、足取りにはまったく迷いが見られない。ただ前だけを見つめて、颯爽と歩いてゆく。
それは、一国の皇子としては
(な……何? 何が起こっているの?)
足早に歩きながら、レティーツィアは眉をひそめた。
前述したとおり、シナリオではリヒト自ら学園を案内するのだ。
その最中に主人公は他国のプリンスやその側近たちと出逢う。つまり、リヒトが学園を案内しながら、主人公を攻略対象全員に引き合わせるという展開となっている。
それにより、主人公は『学園はじまって以来の転入生』というだけではなく、『シュトラール皇国の皇子自ら学園を案内した
(殿下が学園を案内しないと、ゲームがはじまらないのでは? それってどうなの?)
悪役令嬢としての破滅は絶対に
(それってつまり、シュトラール
リヒトがヒロインに恋をすることなく、レティーツィアが婚約を破棄されることもなく、当初の予定どおり、
(そ、それは困るっ……!)
とても困る。すごく困る。困るどころの話ではない。
(繰り返すけれど、転生したのが主人公じゃないってところが、神さまは『私』を本当によくわかってらっしゃるのよ! だって私、『推し』と自分との
自分にとって『推し』は、あくまで『
自分はただ、『推し』が幸せになるのをじっと見守っていたい。
それ以上に『推し』に望むことなど何もない。望んではいけないとすら思っている。
だから、『推し』と自分がどうこうというのは、
もちろん『推し』との恋愛妄想を楽しむ『夢女子』のみなさまを否定するつもりはない。それはそれで、作品の楽しみ方としてアリだと思う。だが、自分は無理なのだ!
(『推し』と同じ世界に行きたかったのも、『推し』と恋愛をしたかったからじゃない。壁になって、『推し』の幸せをただひっそりと見守りたいだけなのに……!)
そして、『推し』が自身の力ではどうすることもできないような困難に直面した時には、殿下の恋を見守るモブおじさんとして、
別世界に生息していては、『推し』を幸せにするためにできることなどほとんどない。
同じ世界にいればこそ、『推し』を幸せにするために全力を
だからこその、願い!
(ど、どうしよう……)
破滅は絶対に回避したい。『推し』を愛でられなくなるのは絶対に嫌だから!
当然のことだ。相手は次期国王。罪人がそのご尊顔を拝すことなど、できるはずもない。ましてや、レティーツィアを断罪するのは、その皇子本人なのだ。
(『推し』が庶民なら問題はなかったのだけれど、皇子である以上は、存分に愛でるには相応の身分が必要不可欠。そして、『推し』に尽くすにも、それなりの財力は欠かせない。『推し』を存分に愛でるためには、公爵令嬢の身分と財力は絶対に必要なのよ……!)
だからこそ、悪役令嬢として破滅するわけにはいかない。
しかし何度も言うように、自身が『推し』と恋愛をしたいわけではないから、このまま何ごともなく学園を卒業してリヒトと
(『推し』の
となれば――道は一つだ。
リヒトにはヒロインとがっつり恋愛してもらって、自分はそのよき理解者――もしくはキューピッドのポジションで、全力で二人を
(そして、
そもそもリヒトとレティーツィアの婚約は、リヒト自身が望んだものではない。
『推し』には本当に心から愛した人と一緒になって、それを国王から、貴族から、民から大いに祝福され、誰よりも幸せになってもらいたい。
そのためには、まずはゲームをちゃんとシナリオどおり進むようにしないといけない。
(そして、ヒロインには、ぜひとも攻略対象にリヒト殿下を選んでもらわないと……!)
シナリオを知っているというアドバンテージを、うまく活かして――。
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