②
(何ごともなく進めばいいけれど……でもそうじゃなかったら?)
乙女ゲームとして完全に
だからこそ、なんとか主人公がゲームを進められる状況まで持って行きたいのだけれど、これがなかなかうまくいかない。
「つらくなったらすぐに言うんだよ。リヒトに言いづらいなら、私でもいい。イザークでも、ラシードでも、最近仲良くしているレア嬢にでもいいから」
「お気遣いいただき、本当にありがとうございます。大丈夫ですわ」
本当に全然気にしていないし、むしろマリナの印象が悪くなることのほうが問題なため、にっこり
「それより、どうかなさったのですか? 二年生の教室にいらっしゃるなんて」
「ああ……実はノクスを
「またか!」
セルヴァが困ったように
「お前んとこの側近はいったいどうなってるんだ。ちょいちょい
そう言って、教室のドアの前に立つアーシムを指差した。
「見ろ、あのアーシムを! 用もないくせに、休み時間のたびに二年の校舎に来やがる!
「鬱陶しいんじゃないか」
「だが、側近とはそういうものだろう? 主人に探させるなど……あってはならん!」
「ノクスの忠誠心は、アーシムのようにとても強いよ。だからこそ、いなくなるんだ」
そんなラシードに
「主人に危険が
「そうだ! それぞ側近だろう!」
「ノクスは主人の
思いがけない言葉だったのだろう。ラシードが息を
そしてレティーツィアもまた、セルヴァを見つめたまま目を見開いた。
二人のやりとりに、覚えがあったからだ。
「僕のためなら、喜んで
ヴェテルの攻略対象――ノクスと主人公が
ただし、その場にいたのはレティーツィアではなく、主人公だったけれど。
(
全身から、血の気が引いてゆく。レティーツィアは震える手で口もとを覆った。
攻略対象と出逢う布石となる会話が、主人公の前で行われなかった。
話の内容的にも、二人が主人公の前でまったく同じ会話をもう一度するとも考えづらい。
ということは――その攻略対象と主人公が出逢う余地がなくなってしまったということにならないだろうか。
『黙っててよ! 口を出さないで! っていうか、どうしてここにいるのよ! あなたがいるから、うまくいかないのよ! どこかに行って!』
マリナの言葉が、
主人公が聞くはずの会話を自分が聞いてしまったのは、たしかに見方によっては
これでは、『あなたがいるから、うまくいかない』と言われても仕方がない。
ただの八つ当たりだと思っていたけれど、もしかしてそうではないのだろうか。
(私……知らないところで、主人公の邪魔をしていた……?)
何かしたつもりはないけれど、それでも自分のせいでゲームがシナリオどおりに進んでいないのだとしたら、マリナが過剰な反応を示したのにも
マリナが、あれほどまでに自分を目の
「…………」
言葉を失っていると、それに気づいたセルヴァが「すまない。レディの前でするような話ではなかったね。
レティーツィアは力なく首を横に振った。
「いいえ、大丈夫ですわ……」
「……しかし……」
「だが、この学園でそんな危険はそうないだろうよ。言いたいことはわかるが、それでも週に三度も主に探させるのは、多過ぎる」
納得がいかないのか、ラシードがブスッとしたまま言葉を続ける。
セルヴァは何か言いたそうにレティーツィアを見つめたあと、そっと静かに息をついてラシードに視線を
「ノクスが相手にするのは、危険だけじゃないからね。僕の周りの不確定要素はとにかく排除しておきたい
「まぁ、オレの側近ではないからな。セルヴァがそれでいいなら、オレが言うことはない。だが、気に入らん!」
さらに
「忠誠心があるのなら、余計にだ! 主に心配をかけるのも罪だと教えておけ!」
どうやらノクスの従者としての在りように不満があるというよりは、セルヴァのための言葉のようだ。セルヴァがいつも心
それが伝わったのだろう。セルヴァは
「ふふ。そうするよ。本当に……ラシードはまっすぐでいいね」
「なんだ? 馬鹿にしているのか?」
「まさか。
学園の中心にある聖堂の
セルヴァは「ああ、
「
相談など――できるはずもない。
レティーツィアはセルヴァを見上げると、再びにっこりと笑った。
「ええ。でも、本当に大丈夫ですわ。セルヴァ・アルトゥール殿下」
尊き方々のお心を、煩わせてはいけない。
(笑っていなくては……)
何があっても、なんでもないのだという顔をしていなくては。
レティーツィアは笑みを深めて、努めて元気よく告げた。
「
その答えに、ラシードがギリリと
そしてセルヴァもまた、悲しげに目を
「そう……。それなら、いいのだけれど」
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