第二章 同人誌(ほん)がなければ、作ってしまえばいいじゃない!
①
「この世界は……なんて
レティーツィアは指を組んで口もとを
空はどこまでも青く
(この世界に生息するヲタクって、ちゃんと息できているの? 心配なんだけど)
まさか、そもそもヲタクが存在していないなんてことは――いや、それはないだろう。
この学園の選ばれし者たちは、生徒たちから常にその一挙手一投足を注目されている。
ラシードがアーシムと笑いながら歩いているだけで黄色い声を上げ、クレメンスが心地よい
それで、ヲタクが存在しないわけがない。
ファン心理は持っているのにオタク心理が理解できないだなんて、そんなわけはない!
(だとしたら……みんな、どうして平気なの……?)
気軽に
少なくとも、レティーツィアには
つくづく、自分が生きた時代の日本は、ヲタクに
(かつては日本でも、同志を探すのが困難だったと聞いているけれど……)
インターネットが
同人作家さまも、創作意欲をぶつける先は薄い本や専門雑誌への投稿に限られていて、今より同人印刷が当たり前でなかった時代、本当に苦労して創作を行っていたという話だ。
ネットはあってもSNSがまだ存在しなかった時代、同人作家さまたちは自身の
『萌え』の供給を求めて、血のにじむような努力をしていたのだと――。
「そう考えたら、もしかしてSNSがないと
SNSやネットがなければヲタクでいられないなんて、愛が薄い
(先人がそうしてきたように、『
そこまで考えて、ふと心の中に明かりが
(そうだ、そうすればいいのよ。ヲタク分化を広めてゆけばいい)
大っぴらにではなく、あくまでひっそりと、こっそりと。だけど確実に。
(とすると――まずは何からはじめる? 同志さまの
そんなことを、
「レティーツィア
トンと、机に
「
いつの間にか前に立っていたラシードが、レティーツィアの顔を
「ッ……!」
動いて話す『推し』が尊過ぎて、
いや、動いて話すだけではない。さらに、レティーツィアの心配までしてくれたのだ。ときめかずにいられようか。
そして、こうやってラシードが
(キュン死してしまいそう……)
「
顔を真っ赤にして萌えを
「まぁ……! セルヴァ・アルトゥール
「日に日に
風を
豊かに波打つ
「もしや、あの
葡萄色の瞳が心配そうに
「いいえ。そうではありません」
もちろん、ヒロインであるマリナについての
あれから彼女は、毎日何かしら理由をつけてリヒトのもとへとやってきては、リヒトやほかの選ばれし方々とお近づきになろうと試みているが、まったくうまくいっていない。
リヒトが目当てのようにも見えるけれど、『皇子自ら学園を案内する』というゲームの最初のイベントが起こらないことにはほかの
(どうも、ゲームと同じ
ということは、彼女も転生者なのだろうかとも思ったけれど、そもそもゲームならば、シナリオどおりに進むように
そう考えると、ゲームのキャラクターであるにもかかわらずシナリオどおりに行動する気配がまったくないリヒトのほうがおかしいのかもしれない。
(だから、よくわからなくなってきちゃったのよね……)
シナリオどおりに進んでいないのもあり、
この一週間――わりと詰んでいる。
丸一年という
「お
「そうかい? それならよいのだけれど。彼女はなぜ、ああも君に
その言葉に、内心ため息をつく。
ゲームを先へ進めようとするマリナの行動は、プレイヤー目線からすれば
だからついつい
にらまれたり、冷たい言葉であしらわれたり、無視されたりは
『
レティーツィアに対して当たりが強いのは、さほど気にならない。それより、リヒトが最初の行動をしないせいで、ほかの攻略対象がマリナに興味を持つどころか逆に悪印象がどんどん積み重なっていってしまっているほうが問題だ。
これが続けば、本来
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