⑨
エリザベートがゴクリと息を呑み、震える声で話し出す。
「あの、さっきも言ったとおり、今まで一人で……誰かと語らうことができなかったので、私、実はその……情熱と創作意欲を……アクセサリーだけでは消化できなくて……」
その言葉に、思わず目を見開く。――もしかして。
「っ……そ、その……も、物語のようなものも……書いていたりするのですが……」
「――ッ!」
考えるよりも早く、
そのあまりの勢いに、ソファーがガタンと音を立てる。エリザベートは身体を弾かせ、少し慌てた様子でレティーツィアを見上げた。
「あ、あの、レティーツィアさま……。私……」
「
「え……?」
予想していた反応と違ったのか、エリザベートがポカンと口を開ける。
「えっと……ほ、本と言えるほどのものではありませんが……その……ええと……」
「わたくしが書いたもの以外に、同人誌が存在するのね!?」
「ッ……!?」
瞬間、レティーツィアを映した新緑の瞳が、驚愕に染まる。
「ま、まさかレティーツィアさまも……?」
「エリザベートさん! その同人誌は、今どちらに!?」
欲望で目をギラつかせながら、問いかける。
「え……? も、もちろん、家に……」
「ケイト!」
すぐさま、部屋の外に
間髪容れずドアが開き、侍女のケイトが
「すぐに馬車を用意させてちょうだい! そして、出かける準備を!」
「――かしこまりました。行き先はどちらに?」
「もちろん、彼女の家よ」
そう叫んで、レティーツィアは
「エリザベートさん!」
「は、はいっ!?」
「どうか読ませて。お願いですから読ませてちょうだい! 読ませていただけるわね!? そこまで話しておいて、読ませないなんて言わせませんわよ!」
最後は
「もちろん、わたくしが書いたものもお渡しするわ! そのうえで必要ならば、配布代もお支払いします! ですから……」
「お、お金なんかより……。私も読ませていただけるんですか!? レティーツィアさまが
「ええ! 起承転結がきちんとした物語は一本しか書けていませんけれど、前後関係なく一つのエピソードを書き散らしただけものなら、いくつかありますわ!」
山なし、オチなし、意味なし――いわゆるヤオイものだ。
読みたい同人誌がなければ、自分で書けばいい。実はレティーツィアは、前世の記憶が戻ってからというもの、毎晩ガリガリと欲望のままに文章を書き散らしていた。
「どうぞ読んでちょうだい。もちろん
自分の性癖のど真ん中を
「ですから、それらがエリザベートさんの心の琴線にも触れたなら、語り合いましょう。思う存分語らせていただきたいし、またエリザベートさんのお話も聞きたいわ」
「レティーツィアさま……」
「でも――」
レティーツィアは悪戯っぽく目を細めると、その指で優しくエリザベートの頬を
「わたくしの同人誌は、少々
「……ッ……!」
その
そして――神に祈るかのように胸の前で両手を組むと、
「はいっ! どこまでもおともいたします! レティーツィアさまっ!」
悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい! 烏丸紫明/ビーズログ文庫 @bslog
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