第26話 知らされない本心
翌日は12時に駅前で待ち合わせをした。
今日は黒のパンプスにデニムスキニーで上はボーダーシャツの上に白のジャケットを着ている。
前回の姫乃ちゃんの格好がめちゃくちゃ可愛らしいものだったから、隣にいて恥ずかしくないように自分のスタイルを考えみてベストな服装を着てきた。
前回よりちょっと早めの10分前に到着したけど、姫乃ちゃんはすでに待っていた。
可愛らしい格好をした姫乃ちゃんが私の目に入った瞬間に、私の視界から姫乃ちゃん以外の景色が消えていた。
黒のショートブーツに紺色のプリーツスカートをはいて、上には白のオーバーサイズのニットを着ている姫乃ちゃん。
姫乃ちゃんの幼なげな可愛らしさが溢れ出て来て抱きしめたくなるような格好をしていた。
思わず写真に残しておこうかとスマホに手を伸ばそうか迷っていると、キョロキョロとあたりを見回していた姫乃ちゃんと目が合う。
その瞬間に花が咲いたような笑顔を見せて私の方に手を振ってくる。
そして、気づいたらお互いに小走りになって近づいていた。
姫乃ちゃんが目の前にやってくると、開口一番まるで口説いているかのようなセリフが私の口から飛び出していた。
「姫乃ちゃん今日も本当に可愛いね、この前も言ったけどそんなに可愛い格好をされたら男どもに目をつけられて大変でしょ。今日は私のそばから離れちゃダメだからね」
一方姫乃ちゃんも大したことない私の格好を誉めてくる。
「いえ紗希先輩の方こそ大人の女性の綺麗さが良く出てますよ。先輩こそ私の側を離れてナンパなんかされないでくださいよ?」
駅前の人が大勢いる中だっていうのに、お互いに笑えるほどの褒めあいを繰り広げていた。
普段から姫乃ちゃんには可愛いとか綺麗とか言われているけど、改まって言われるとやっぱり恥ずかしいし、だけど嬉しいものだと感じる。
姫乃ちゃんとこうして一緒にいるのが当たり前になる前は、自分がこんなことを言われて喜ぶ人だということすら知らなかった。
姫乃ちゃんは私の知らない一面を一杯引き出してくれる。
ひとしきりお互いのことを褒めあったらこれからのことを話し始めた。
「今日はこの間と同じ場所でご飯を食べるでいいですか?」
「うん、いいよ」
姫乃ちゃんと一緒ならどこでもね。
前と同じ道を2人で歩いていく
でも以前と違うのは、2人の距離が近づいている事だ。
二人の間にあった誰かが通り抜けることができそうな空間。
それが今はピッタリと寄り添うようになくなっている。
私たちの心の距離が近づいた証拠みたいで嬉しくなる。
そうして、すっかり冷たくなってしまった空気に負けないように二人で歩いていく。
しばらく歩いてお店の前に到着した。
前は驚いて、入るのに躊躇したドアも今度はためらう事なく開ける。
そして、心地よい空間に足を踏み入れて、森の中の食堂へと二人でお邪魔する。
散々迷って結局注文したのは、
私がオムライス、姫乃ちゃんがカルボナーラだった。
「またお互い同じのを頼んだね」
私がそういうと姫乃ちゃんは少し驚いた表情をして私に返事をする。
「私もそう思ってました。というか先輩も覚えてくれていたんですね」
「そりゃ覚えているよ、だって姫乃ちゃんとの初めてのデートだもん」
私が当然のことのように言うと、先ほどまで落ち着いていた姫乃ちゃんは急にあたふたしだす。
「あっあれはデートだったのでしょうか!?」
「違うの?私はそう思っていたけど」
いたずら心と少しの本心をのせて姫乃ちゃんに問いかける。
「そっそれならデートだったのかもしれません…」
そう言って下を向きながらあの日のことを思い出している姫乃ちゃんに向けてさらに問いかける。
「あの日は私のために可愛いものをいっぱい見せてくれようとしていたよね?」
自分がなんのために働いているのか、何を求めて生きているのわからない。
そんなどうしようもない奴だった私のことを真剣に考えてくれたあの日の姫乃ちゃん。
私だったら面倒くさくて関わり合おうとは思わない。
なのにわざわざ自分の貴重な時間を使って、下調べをして、休日を私のために使ってくれた姫乃ちゃん。
「どうかな?姫乃ちゃんからみて、私はあの頃から変わったかな?」
もしも変わってなかったら姫乃ちゃんに申し訳が立たない。
あの日からいつも私のそばにいてくれて私の心をずっと優しく包んでくれた姫乃ちゃんに。
「どうなんでしょうね、私からみた紗希先輩はいつでも美人で優しくて格好良い先輩だから」
「そんなわけないでしょ?こんだけ一緒にいたら私の本当の姿ってやつもわかっちゃったでしょう?」
自分がそんな大層な人物でないことぐらいは分かっている。
これだけ一緒にいたと言うのに姫乃ちゃんの私の人物像がいい人すぎてドン引きするまである。
「本当の姿かは置いといて。一緒にいる時間が増えれば増えるほど、先輩のいいところがドンドン増えていって困ってはいますね」
だと言うのに姫乃ちゃんは私のことをさらに褒めようとしてくる。
でも、
「なんで困るの?」
恥ずかしいけど私のいいところが増えるのはいいことだと思う。
なのに姫乃ちゃんは困ってしまうと言う、その理由がわからない。
私が首を傾げながら聞いたというに、
「それは…もうちょっと秘密です」
そう言って姫乃ちゃんは質問には答えてくれなかった。
「もうちょっと?」
「はい」
そう言って姫乃ちゃんは今にも崩れてしまいそうな儚い笑みを浮かべてくる。
私にはどうしてそんな表情をするのかわからなかった。
だけど、そんな表情を変えたくて私も姫乃ちゃんについて話していく。
「私も姫乃ちゃんとずっていたから、いろんな姫乃ちゃんを知れたよ」
そうだ、姫乃ちゃんが私のことをみて来たように、私も姫乃ちゃんのことをみてきた。
「私が思っていたよりもずっと料理が上手で、教えるのが上手で、意外と面倒見がいいこと」
料理を教えるのが上手で、初心者の私が危ない手つきで包丁を握っていても優しく教えてくれたこと。
それと、
「あと、寂しがり屋なところ」
「寂しがり屋なところですか?」
意外そうな顔で私の方を見てくる。
「そうだよ、一人が寂しいから私の家に泊まりたいって言ったじゃない」
そうして私が寂しがり屋だと思っている理由について話す。
だと言うのに姫乃ちゃんは、
「もう、紗希先輩は本当に可愛らしい人ですね」
そう言って姫乃ちゃんは大人びた顔で私のことを見てくる。
まるで私のことを子供だと思っているかのように。
「どういうこと?」
全く意味がわからない私は心底不思議そうに聞き返す。
でも姫乃ちゃんは笑みを崩すことはなく、そして教えてくれることもなかった。
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