第18話 姫乃ちゃんとのお出かけ〜お泊まり

私の右肩と姫乃ちゃんの左肩をピッタリと合わせた状態での動画視聴が始まった。


どんな動画が見たいか姫乃ちゃんに聞くと、私が普段見ているような動画が見たいですと言われる。

ならば私の日常に潤いを与えてくれている動画を一緒に見ていただくとしよう。



私たちが見守るディスプレイに現れて、愛くるしい姿を提供してくれるのは、


クリクリとしたお目目

警戒心を表す尻尾

だけど甘えてくる時に見せる猫撫で声


そう、私が普段見て癒されているのはネコ動画である。


あぁ~何で猫ってこんなにも可愛いんだろう。

特に家ネコを家族が撮影した動画は本当に良い。

他人に対しては気軽に近寄ってこないネコちゃん。

だけど、家族にだけ見せる甘えるところを横から眺めさせてもらえる幸せ。


はっ!このネコチャンの可愛さについて姫乃ちゃんにも伝えなければ!


「みてみて、足にネコチャンがスリスリして、構ってアピールするの本当に可愛い」


「あうっはぁい、そうですね」


「あと、飼い主が構ってあげなくてナァナァ鳴くのも好きなの」


「うんっ、私もです」


「それにベッドにのってこられたら抱きしめたくなっちゃう」


「あんっ、お願いします」


うん?なんだか返事がおかしかったような気がする。


「姫乃ちゃん、動画見てる?」


少しだけ上の空になっている姫乃ちゃんに問いかける。


「ふぁっ、見てますよぉ~」


なんだかネコちゃんみたいな甘えた声を出す姫乃ちゃん。


「じゃあどうして、目を半分閉じてそんな声を出しているの?」


「もぅっ…分かっててやってますよね」


潤んだ瞳でこちらを横目で見てくる姫乃ちゃんに対して、私は素知らぬ顔をしてディスプレイを眺める。


ただし普段見てる時とは見る体勢がちょっとだけ違う。

横目でディスプレイを見ながらも、私のお口は声フェチだという姫乃ちゃんのために、そっと姫乃ちゃんの左耳に近づけている。

そして姫乃ちゃんに話しかける時も、耳が痛くならないように、そよ風が吹いているような声で語りかけている。


そのおかげもあって、先ほどから姫乃ちゃんがとってもいい反応をしてくれている。

具体的にいうと、私が話しかけるたびに体をビクビクとさせている。


…なんだこれ。ハマってしまうかもしれない。


私には断じてそういう性癖はなかったはずだ。

なのに今は、可愛いらしい反応を見せてくれるこの子を、いじめてしまいたいという気持ちが溢れてくる。


ひめのちゃんの普段はハキハキと喋る声が、今はどこか甘えるように小さな声になっている。

こちらを見つめる顔も、先ほどよりも酔いが深まってしまったのか赤く染まっている。


そして何より、長い間こんなことをされているのに自分からソファを立って逃げようとか、私を押しのけるなんかをせずにじっと私の声を受け止めている。


「本当に、やめて欲しいの?」


潤んだ瞳にそう問いかけるが明瞭な返事はなく、唸るような声がその小さなお口から漏れてくる。


それにしても、こんなに近くで姫乃ちゃんのことを見つめるのは初めてかもしれない。


あっ意外とまつ毛長いんだ

ほっぺた柔らかそぉ〜

口もとがプルルンとしてるなぁ


私が姫乃ちゃんの細部を観察していると、それに気づいた姫乃ちゃんが私の視界から自分の表情を見せないように反対側を向いてしまった。


「…恥ずかしいので、そんなに見つめないでくださいよぉ」


ちょっとやりすぎたのかな?少し休憩を入れますか。


スッと身を引いて立ち上がり、ちょっとトイレに行こうとする。


「あっ…」


思わず口から出てしまったような吐息が歩き出そうとした私の背後から届いてきた。


すぐさま振り返った先には、此方に手を伸ばしたけどすぐさま引っ込めている姫乃ちゃんがいた。


うん?こないだ散々私の事を寂しがりみたいに言ってたけど、やっぱり姫乃ちゃんも寂しがりなのでは?

一度は上げた腰を再びソファーに落ち着かせる。


どうしよう、もういい時間にもなってきたし普通なら家まで送り届けるんだけど…

この前、また泊まりたいって言ってたもんな、本当かわからないけど。


「今日はもう遅いし、泊まっていく?先週と同じく同じ布団で寝ることになるけど」


なんでだろう、今の状態の姫乃ちゃんを家に送っていくのも心配なのは確かにある。

でもそれ以上に、私も一緒にいたいっていう気持ちが小さく主張してくるのも感じる。


だから断られるかもしれないけど、思わず聞いてしまう。


「…はい、よろしくお願いします」


そう言って、私の方にぺこりと頭を少しだけ下げてお願いをしてくる姫乃ちゃん。

なんだか嬉しくなって、その柔らかそうな頭をなでつつ了解しましたと快くお返事を返させていただく。


「それじゃあどうしよっか?結構酔っちゃったし今日はシャワーにしとく?」


姫乃ちゃんの赤く染まった柔らかそうなほっぺたと、甘く開かれている瞼を見ながら聞いてみる。


「…はい」


普段の姫乃ちゃんとは違って甘えるような小さな声でお返事を返してくれる。

そんな姫乃ちゃんを見て、思わずまた頭をよしよしと撫でてしまう。


そんな私の行動にも全く嫌がらず、むしろ嬉しそうに頭を押し付けてくれる。

いつまでもこの可愛い子を撫で続けてあげたいという気持ちが、私の内側の方から声をあげている。

お昼はあんなにもお姉ちゃんムーブを炸裂してくれたのに、夜になるとこんなに可愛い妹に戻ってくるなんて!


そんなどうでもいいことを考えている間にもゆっくりと時間は流れていって、本当に姫乃ちゃんが眠そうにしてきたようである。


至福の時間は終わりにして、姫乃ちゃんをシャワーへ送り出す。

今日も先週と同じ服に着替えてもらい、私も続いてシャワーへと繰り出す。


その後は、二人とも寝る準備を整えたらベッドへと潜り込んだ。


今日は私のためにたくさん尽くしてくれた可愛い子。

その子に寝てしまう前に、ちゃんとお礼を言っておかなくちゃ。


「今日はわざわざ休日に私のためにいっぱい考えて、いっぱい一緒にいてくれてありがとう」


「…はい」


お返事は短かったけど、その表情を見れば私の言葉は間違ってはいなかったんだというのが分かった。


ちょっとだけ姫乃ちゃんの方に近づいて、寝る前の最後におやすみと伝え合った。

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