第17話 姫乃ちゃんとのおでかけ〜晩御飯

昼食後はショッピングモールに移動してお買い物を開始することにした


「ちなみに紗希先輩が部屋に置いてみたいものってありますか?」


「う~ん…」


私のために考えてくれている姫乃ちゃんには悪いけどすぐには思いつかない。

そもそも普段はネットの住民だから、実際にお店に来て何があるのかもよくわかっていない。


大学からの友達と、こういう所に来るときは大体が友達が率先してくれたからなぁ。


実際に商品をみてみたら好みかそうじゃないかとかは分かるけど、モールに入ってすぐの入り口からどこの方向に向かって歩き出したらいいのかは検討もつかない。


「それでは!姫乃プレゼンツで紗希先輩のプライベートを彩ってくれるような商品を提案していくことにします!」


私以上にウキウキと楽しそうな姫乃ちゃんが、隣から私を見上げながら話しかけてくれる。


そんな姫乃ちゃんを見ているだけで、このモールには本当にそんな商品があるんだろうって気がしてくるから不思議だ。


実店舗よりもネットの方が商品の種類は桁違いに多い。

だけど、姫乃ちゃんと一緒に歩いているとこっちの方が断然いい物に巡り会えそうな気がしてくる。


いつもは私より少し背の低い姫乃ちゃんのことを妹のように思っていた。

でも今は、私のことを引っ張ってくれる頼れるお姉さんみたいに見えてくるから不思議だ。


「どうしました紗希先輩?」


「ううん、なんでもないよ」


本当になんでもない。ただ、こうして一緒に歩いているだけで、私は心がポカポカしているよって目線で伝えただけだ。



それから私たちはいろんなお店を歩き回った。

私の家が、私をちゃんと迎えてくれるような、優しい気持ちにしてくれるような、そんなものを探していった。


本当にいろんなお店を見て回って、モールの中を2周ぐらいはしたと思う。


シューズにしておいてマジでよかった。

普段は家の中でゴロゴロしているから、ヒールの靴なんか履いて着てたら足がパンパンになってたところだ。


こんだけ歩き回ったんだから、さぞや大量の商品を買うのかと思いきや、実際に買ったのは2つだけだ。


デフォルメされたクマのぬいぐるみと、白いヌぼ~とした北欧の妖精が描かれたお皿だ。


「私は別に良いけど、これだけで良かったの?てっきりもっとたくさん買うのかと思ってたよ」


「これでいいんですよ。だって無理に増やしても、先輩が気に入らないと意味がないでしょ」


「この2つは気にいるって事?どうかなぁ、もしかしたらそこまで好きじゃないかもよ?」


今日はあまりにも姫乃ちゃんがお姉ちゃんムーブをしてくるので、ちょっと意地悪なことを言ってお姉ちゃんを困らせてみた。


「そんなことはありません。だって、一緒に見ていた時に思わず表情が優しくなった時の商品ですから」


もぅ、本当に私のことをよく見てるよね。

確かに、この2つは今日歩き回った中では1番私の好みに合っていた。


それにしても、今日は姫乃ちゃんの後について、商品を手に取ってはネットで分からなかった手触りなんかを楽しんでいた。


だけど、私も姫乃ちゃんが気にいるようなものを探してあげればよかったと少し反省中…


そんな事を考えていると、姫乃ちゃんがいつもの天真爛漫な妹みたいな顔をする。


「でも、もう1つ理由があって」


一体どんな理由だろう?もしかして、歩き疲れちゃったとかかな?


「…少しづつ買っていく方が、先輩と何度もお出かけできるでじゃないですか」


なんて嬉しいことを言う後輩なんだろう。

そんなことを思いながらも、私の口からは私が普段いいそうな言葉がつい出てしまう。


「一度で済ました方が楽でよくない?」


「そうじゃなくて、一緒の時間を楽しみたいってことです!」


可愛らしい姫乃ちゃんの顔がぷくぅーと膨れている。

まぁそんな顔もあざと可愛いけど。


だけど、私の本心もちゃんと伝えておかないと、ここまでエスコートしてくれた姫乃ちゃんに失礼だよね。


「冗談だよ、私も今日は楽しかったよ。また一緒に来たいと思うぐらいにね。今日は本当に誘ってくれてありがとうね」


「紗希先輩…今日はまだこれから料理教室があるの忘れてませんか?」


「覚えてるよ。でも、ここまでしてくれた姫乃ちゃんに、ありがとうって今言いたくなっただけ」


普段の私なら絶対に言わない言葉が自然と喉の奥から、心の方からふっと出てきた。


きっと、1日かけて姫乃ちゃんが私の心を柔らかくしてくれたからなんだろう。


そんな私の心こもった言葉に姫乃ちゃんは珍しく淡白な返事を返してきた。


「そう言って貰えると此方としても嬉しいです」


でも、セリフは淡白だけど表情は嬉しさを噛み締めているみたいに口をモゴモゴとさせていた。


こういう時こそ、感情をストレートに表してくれた方が嬉しいのに。


ふふっ恥ずかしいのかな?




その後は2人でスーパによって真っ直ぐに我が家へと向かった。


今日の料理教室では肉じゃがと味噌汁を作った。

この間カレーを作ったから工程自体は慣れたものだった。


あと、自分でいうのもなんだけど、我ながら前回よりも包丁捌きが上手くなったと思う。


これまではなんとなく包丁を握って、食材を切り刻んでいたけど、ちゃんとした方法を知るだけで随分料理上手になった気がしてくる。


まぁ、前回同様に姫乃ちゃんに手取り足取り教えてもらったけどね。


だけど、教えている時の姫乃ちゃんはとっても幸せそうだっから問題ないとしておこう。



料理が出来上がると、早速今日購入した北欧のヌボーとした白い妖精さんが書かれた食器を使ってみる。


こちらをみてくる妖精さんと目があう。

我が家に君みたいな可愛いやつがくるとは思いもしなかったよ。

これからよろしくね。


心の中で恥ずかしい会話を繰り広げる。


ちなみにお茶碗は未だに100均である。


今後も2人でご飯を食べるならお揃いのお茶碗を買っても良いかも知れない。


なんとなくだけど、その方が姫乃ちゃんも喜びそうな気がする。


よしっ。次に一緒に買い物に行った時にこっそりと買っておこう。


それで、ご飯の時になってサプライズで使ってみるのはどうだろう?


うん、なかなかいいアイディアな気がしてきた。


まだ買ってもいないのに尻尾を振って喜んでくれそうな姫乃ちゃんが思い浮かぶ。



晩御飯を食べ終わった後はまったりとした心地よい空気になる。


とりあえず面倒な洗い物を先に済ませながら、これからどうしようかと考える。


いつもなら、1人でお酒を飲みながら動画でも視聴するけど、今は姫乃ちゃんもいる。


私の健康に気を遣ってくれる姫乃ちゃんの前で、一人だけお酒を飲むのはちょっと悪い気がする。


というか嗜められそうだ。


まぁそんなの気にせずに飲むこともできるけど、どうせなら一緒に楽しみたいな。


悩んでもしょうがない。

とりあえずストレートに頼んでみよう。


「私はこの後はお酒を飲みながら動画でも見ようかと思っているけど、姫乃ちゃんも一緒にどう?」


「昨日も飲んだのに、今日も飲むんですか?今週は休肝日はありましたか」


うわぁ、予想以上に注意された。


でもめげない!ここは別の切り口でお誘いしてみよう。


「まぁまぁ、美味しい料理を食べた後はお酒を飲むのが常識でしょ?でも姫乃ちゃんと一緒に飲む方がもっと美味しいお酒になるとは思うんだけどなぁ」


どうだ!我ながらいいアピールができたんじゃないだろうか?


私のアピールが効果的に決まったようで、1つ溜息を吐きながらも姫ちゃんは私を喜ばせる返事をしてくれる。


「もう…しょうがないんだから。紗希先輩が飲み過ぎて体を壊さないように、私が監視してあげないといけませんからね」


「そうそう、しっかりと監視してね?だから私よりも先に潰れたりしたら許さないんだからね」


「えっ!これからどれだけ飲むつもりなんですか!?」


「ふっふっふっ。それを見届けるのも姫乃ちゃんの役目でしょ?ちなみに姫乃ちゃんは何飲む?梅酒でいいかな?」


「はい。…それにしても紗希先輩は梅酒みたいな甘いお酒も好きだったんですね」


「まぁ普通ぐらいかな」


「じゃあどうして今日は置いてあったんですか」


「それはもちろん」


姫乃ちゃんの耳元で囁くように


「…姫乃ちゃんのために買ってきたんだよ」


「あぅっ!耳は弱いのでやめてください!」


「えっ、それは大変だ~」


全然大変そうでない声を出しながら、再び姫乃ちゃんの耳に囁いていく。


「今後のためにもしっかりと鍛えていかないといこうね」


「~~~~!」


悶えるように体をギュッと抱きしめている姫乃ちゃんを見ながら晩酌の準備を進める。


うん、この姫乃ちゃん姿を見ながら飲むお酒はなかなか美味しそうだ。


今夜は姫乃ちゃんで楽しむことにしようかな。


「どうして今日はそんなに攻めてくるんですか!」


「ほらっ、今日は姫乃ちゃんがいっぱい私のために働いてくれたから、お返しをしとこうかなって」


「なんでお返しがそれなんですか!」


「だって前に言ってたじゃない?」


声フェチの姫乃ちゃんが好きな声は、私の声だって。


あの時のことはしっかりと覚えている。


こんな可愛らしさが全くない私の声を好きって言ってくれる人がいるだなんて、ちょっと自分の声に自信がでたのを覚えている。


「確かに言いましたけど…」


「だから今日は姫乃ちゃんのために耳元でいっぱい囁いてあげようかなって。あれっ、うれしくなかったかな?それなら今後は絶対にやらないよ」


ここでやってほしくないと言われたらお手上げだが、私のしっている姫乃ちゃんなら絶対に…


「…ぃです」


「うん?もう一度言ってみて」


「だから紗希先輩の声で囁かれるのがとっても嬉しいのでぜひやってください!」


半ばやけくそみたいな表情で、開き直った姫乃ちゃん。


うん、うん本当に期待を裏切らないよね。


「ふふっそれじゃあ動画鑑賞しながらいっぱい囁いてあげるね」


そう言って、少し狭い2人がけのソファーにピッタリと肩をくっつけてお酒とつまみを食べながら動画を見る。


もちろん思ったことはすぐに、隣に座っている姫乃ちゃんへお伝えする。


私の声だけ感じとれるように、小さなお耳にピッタリと口を近づけて囁くように話しかけてあげるね。

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