第13話 姫乃ちゃんとの飲み会の危機
今の段階で仕様の変更なんかしようものなら、私は勿論だがシステムを担当してくれている滝谷さんにも洒落にならないほどの迷惑をかけるのは明らかだ。
そんな未来から逃れるため、上司に詳しい話を聞いてみる。
すると、上司が求めていることは今発注している仕様でも恐らくできそうなことがわかった。
なんだ〜焦った…
しかし、口頭で何度説明しても、よくわかってくれない。
しょうがないので、今のままの仕様でも上司のやりたい事が可能であること理解できるような資料を急遽作成することになった。
これまでお世話になった、システム担当の滝谷さんのためにも頑張るかぁ〜。
*
それはそうと、姫乃ちゃんには今日の予定が変わってしまったので終業前に伝えておくことにした。
「姫乃ちゃん〜。残業が確定してしまったよぉ〜」
おつまみ楽しみにしてたから、つい残念な気持ちが前面に出てしまっていた。
「えっそうなんですか…。それじゃあ料理を作って持っていきます!帰ったら連絡してください!」
「いやいや悪いよ。何時になるかも読めないし」
私が感情を出しすぎたせいで、姫乃ちゃんに気を使わせてしまった。
確かに姫乃ちゃんの料理が食べられないのはとっても残念だ。
だけど、週末のアフターファイブなのにいつ帰ってくるかわからない私を待つために、姫乃ちゃんの貴重な時間を使わせるのは申し訳なさすぎる。
「私がしたいからするだけです。嫌だって言っても料理を作ってまっているので、何時になっても良いんで終わったら連絡してくだいね?」
「…本当に甘えちゃってもいいの?」
「良いんです!私がそうしたいんです。」
本当にいいのだろうか?
でも、ここまで姫乃ちゃんがやる気になってくれているなら、私が頑張って早く完了させるしかないよね?
「分かった。できるだけ早く帰るね。そうだ、私の家で待っててもらっていい?」
そう言って、作るだけ作って渡すタイミングがなかった私の家の合鍵をちょっと強引に渡す。
遅い時間になっちゃたら、夜道を1人で歩かせるのが不安だし、私の家で待ってもらいたい。
…引かれちゃわないかな?
「えっ良いんですか?鍵を預かってしまっても?」
「うん、これからも料理を作ってもらうときに困るだろうし。あと、それ合鍵だから持ってて良いから」
「合鍵ですか!?えっえっ!」
…やっぱり先輩の家の合鍵なんて渡されても困るよね。どうしよう、やっぱり今日帰る時に返すように言った方がいいのかな?でも今更返せっていうのも感じ悪いし、
「…うれしい。」
「えっ?」
聞き間違いだろうか?姫乃ちゃんから私の望んでいた言葉が聞こえた気がする。
でもあまりにも小さな声だった。
本当に言ったのか、それとも私の頭が作り出した願望が幻聴として聞こえてきたのか?
どっちなのか分からなくなってきた。
「嬉しいです、紗希先輩!」
姫乃ちゃんの目が真っ直ぐに私の目を見つめて、涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えているような笑顔で私に伝えてくれる。
そうなんだよね、私が姫乃ちゃんに合鍵を渡そうと思ったのも、姫乃ちゃんのこういうふうに、素直に気持ちを表現してくれるからなんだよね。
いつもの私だったら料理を作ってもらおうなんてしないし、ましてや合鍵なんて絶対に渡したりなんかしない。
だけど、こんな姫乃ちゃんだから。素直に感情を表現してくれて、その感情が私を幸せな気持ちにしてくれる。
そんなあなただから私は合鍵を渡すし、今日みたいに甘えようかっていう気持ちになったんだよね。
「喜んでもらえて私も嬉しいよ」
内心の嬉しさは隠して、私は澄ました笑顔で表現した。
「それじゃあより一層腕によりをかけて、美味しい料理を作って紗希先輩を待ってますね!」
「うん。私も早く姫乃ちゃんの料理が食べられるように精一杯頑張るね。」
それから終業時間になったら姫乃ちゃんに「遅くなっても大丈夫なんで無理せずに頑張ってくださいね」って優しい言葉をかけてもらい、残業時間に突入してからも説明用の資料を猛烈な勢いで作り上げていく。
途中で念のためシステム担当の滝谷さんにも、今回上司が要望していることが、今の仕様でも可能な範囲かを確認しておく。
幸いというか不幸にも、滝谷さんも残業していたみたいであった。
そして、上司からの要望を伝えると、確かに今の仕様でもこういう使い方をしたら要望を満たせると言ってもらえた。
さらにイケメンだからなのか、私がお礼を伝えると、
「こちらこそ仕様の追加を防いでくれてありがとうございます。さっきの話を聞くと、説明用の資料を作っているみたいですけど、もしよろしければ簡単な操作方法がわかる資料を作成してお送りしてもよろしいでしょうか?」
「えっ本当によろしいんですか!?」
「はい、私としても今から仕様が追加されるよりよっぽど助かります。それに岩倉さんにはこれまで大変お世話になっていますから」
やはりイケメンだ、手助けの仕方が全然嫌味じゃない。
「それなら資料の方、是非お願いします!あぁ〜システム担当が滝谷さんで本当によかったです。今度何かお返ししないといけませんね。」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいですね。あぁそうだ、今度もしも予定が合えば飲みにでもいきませんか?」
「いいですね。予定が合えば一緒に飲みに行きましょうね?私ってこう見えて結構お酒には強いんで滝谷さんが潰れるまで飲んであげますね」
「ははっそれは怖い。その時は気合を入れて飲ませていただきますね」
そう言って滝谷さんと社交辞令をかわしあって連絡を終えた。
その後少ししてから、滝谷さんからメールが届き、先ほど話していた資料が添付されていた。
よしっ!これで資料作成の時間が大幅に短縮できる!
それからは滝谷さんの資料と補足の説明資料を死に物狂いで作り上げ、上司の元で説明を行う。
上司には「なるほど〜。よく分かったよ、ありがとうね。」っと納得してもらえた。
性格は悪くはないんだけど、この上司は決定的に理解力が低くて、下の私たちが振り回されるんだよなぁ〜。
まぁいいや。上司への説明に結構時間がかかってしまった。
もうすぐ19時30分になる。
私は自分のデスクに戻って速攻で帰り支度を整えて、すっかり暗くなってしまった外に出る。
そしてすぐさま姫乃ちゃんに文章で連絡する。
『仕事終わった。急いで帰るから待っててね』
するとすぐさま返信があった
『はい待ってます。ちょっとぐらい遅くなっても構わないので、気をつけて帰ってきてくださいね』
今にも走り出しそうな私の姿をどこからかみているのだろうか?
そう思ってしまうような返信に思わず笑みが溢れた。
そうして私ははやる気持ちを抑えて、姫乃ちゃんに心配をかけないように安全に気をつけてゆっくりと我が家へ向かった。
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作者より みんなへ
いつも応援してくれてありがとう。
執筆中に挫けそうになるとき
みんなの応援と★での評価が私を頑張らせてくれています!
なのであなたの心が少しでも動いたら★で評価してくれると
とっても嬉しいです!
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