第21話 イケメンとの飲み会発覚

「そういうわけなので紗希先輩、すみませんが今週末は各自ということでも良いですか?」


そんなに申し訳なさそうにしなくても良いのに。

どちらかといえば私の方がもてなされている側だっていうのに。


「ううん、気にしないで。それに、後で言おうと思ってたけど私も予定が入っちゃたから丁度よかったよ」


「へぇ~珍しいですね、お仕事ですか?」


「どうなんだろう、半分お仕事かも?」


「半分ですか?」


「うん、会社のシステム関係をお願いしてる滝谷さんって人と飲みに行く事になったの」


そう言った瞬間に姫乃ちゃんはしかめっつらに、綾は思案顔になる。


「滝谷さんってどんな人なの?」


滝谷さんの事を全く知らない綾が聞いてくる。


綾と姫乃ちゃんに私が感じてる滝谷さんの印象を伝える。

仕事ができて、気配りもできる、あとイケメンらしいという点も。


そんな私の説明に対して何か思うところがあったのか、姫乃ちゃんはテーブルの上に身を乗り出して私に尋ねてくる。


「ちなみに何人で飲みにいくんですか?」


「えっ、滝谷さんと二人だけど」


滝谷さんと直接やりとりをしているのが、私だけだから特に不自然ではないと思うんだけど?


でも姫乃ちゃんの表情はどんどん深刻な表情に変わっていく。


まるで私が見落としている間違いに気づいているかのように。


「…紗希先輩は滝谷さんのことを狙っているんですか?」


と思いきや、姫乃ちゃんが予想外なことを言い出す。


私みたいな普通の女性があんなイケメン?を相手になんてできるわけないじゃない。


「狙ってなんかないよ。この間、仕事でお互いに助かった出来事があったの。それで、お礼の意味も込めて一緒に飲もうって話になったんだよ。しかもだよ、奢ってくれるっていうから断るのも悪いかと思ってね」


断じて奢りという言葉にやられたわけではない、…はずだ。


でも人のお金でのむお酒は美味しいのは確かだけど。


最後に奢ってもらったのは、新卒で入った年ぐらいかな。


この歳になると、もう奢る立場だもんな。


そんなどうでもいいことを考えていると、姫乃ちゃんがコブシに力を入れておかしなことを口走ってくる。


「絶対に滝谷さんって紗希先輩のことを狙ってますよ!気をつけてくださいよ」


「そんなわけないって」


姫乃ちゃんは心配性だな~。

有り得なさそうな想像に思わず笑ってしまう。


「ちなみにお店はどこなの?」


そう言われて、隣に座っている綾にお店の場所を表示したスマホを見せる。


「あぁ~ここか。個室でなかなか落ち着いたところだったわね。ゆっくり話すにはいいところよね」


「そうね、それにお酒が良いのが揃ってるのよね」


前にこのお店に行ったのは1年前ぐらいかな?

あの時は、日本酒を全種類飲んでやろうとして潰れたんだっけ。

まぁ、綾はピンピンしていたけど…


「その分値段もしたわよね」


綾の言葉で思い出した、前回は予想外の金額になってクレジットカードで支払ったんだった。


「う~ん、奢ってもらうのも悪い金額になりそうだなぁ」


実際は私の方が助けられている分も多い。

普通の金額だったらそこまで気にしないけど、あまり高いと申し訳なくなってしまう。


「気にすることはないんじゃない?相手が奢ってあげるって言ってるんでしょ?それなら素直に奢ってもらうのも女の役目でしょ」


そう言って綺麗に笑う綾はこういうことに慣れているのだろう。


私はこんな機会が滅多にないからどうしたものかとその度にあたふたするっていうのになぁ。


まぁ綾がそう言ってくれるんだから、気にしなくてもいいんでしょう。


思うがままお酒を飲み尽くしてやろうじゃないか!


「とにかく、困ったことがあったらすぐに連絡してよ?今は時差なんてないんだから」


確かに最近は時差があったから綾とは気軽に電話できなかったけど、これかはまたいつでも連絡できるもんね。


これまで支えてくれた綾がいると思うと、滅多にない場面でも安心してしまうな。


「うん、わかった。ありがとうね綾」


そう言って素直に綾を頼る言葉を使ってしまう。

テーブルの向こうで、私たちのことを羨ましそうに見ている姫乃ちゃんに気づくことがないまま。



「本当に美味しかったわ、ありがとうね」


綾が頬を緩ませて姫乃ちゃんに向かって言う。


遠慮なく姫乃ちゃんの料理を食べていたので、お世辞ではなく本当に気に入ってくれたみたいだ。


姫乃ちゃんの料理を気に入ってもらえて、何故か私が誇らしい気持ちになってしまう。


なのに姫乃ちゃんはツンとした表情をみせる。


「あなたのために作ったわけじゃありませんけどね」


そう言われて綾は、分かりきった事を聞く。


「じゃあ誰のために作ったの」


「それはもちろん…紗希先輩のためです」


もぉ!可愛いこと言ってくれるねぇ〜


私は、照れながら話す姫乃ちゃんをニマニマと眺めて、この体の奥がぽかぽかするような気持ちに浸っていた。


そんな私を綾はじっと観察していた。



「それじゃあ明日も仕事だし、紗希に迷惑にならないうちにそろそろ帰るわね」


「珍しいね、綾がそんな大人しい事を言うだなんて」


いつもの綾なら、明日が仕事でも今日は飲み明かすぞ!って言いそうなのに。


不思議そうにしている私を見た綾は、やれやれと言わんばかりの顔をして、私にだけ聞こえるようにそっと囁く。


「そんな事したら姫乃さんも一緒に付き合いそうでしょ?流石に入社まもない女の子が平日から二日酔いはまずいでしょ」


うっ確かに。


綾は姫乃ちゃんに会ったばかりだというのに私よりも分かっている。


綾の洞察力がすごいのか、私の気遣い力が低いのか、一体どちらなんだろうね。


そして綾は手早く帰り支度を整えて帰っていった。



その後、姫乃ちゃんを家まで送っていく途中で綾の印象を聞いてみる。


「まぁ悪い人ではなさそうですよね。紗希先輩のことを真剣に心配していましたし」


「そうね、私も綾のことを信頼しているね」


そうみたいですね、平坦な声で返事をする姫乃ちゃん。


そんな姫乃ちゃんに向けて改まってだけど伝えておく。


「でも今は姫乃ちゃんのこともすっごく頼りにしているけどね」


そう言ってこれは本心だというのがわかってもらえるように、私の気持ちが届きますようにってしっかりと目を見て語りかける。


「…ありがとうございます。」


返事は小さかったけど、私の想いはちゃんと伝わったみたいだ。


姫乃ちゃんの緩んだ頬がそれを教えてくれた。


**************

作者より みんなへ

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