第11話 うさぎの弁当箱

昨日の食後に言った通り、お昼になると姫乃ちゃんがお弁当を作って持ってきてくれた。

昨日突然に決まったことだから、今日は外食でもしようかなと思っていたので驚きだった。


「もしかして昨日あれから弁当箱を買いに行ってくれたの?」

「いえいえそんな事はないですよ。丁度偶然、本当にたまたまなんですが、こないだの日曜日に可愛い弁当箱をみつけたので、新しいのを買ってたんですよ」


そう言って私に渡してくれたお弁当箱は、可愛いらしくデフォルメされた、うさぎのイラストが描かれているお弁当箱だった。


「もしかして私に渡した方が新しいお弁当箱?」

「そうですよ。可愛くないですか!」


姫乃ちゃんは今日も元気に可愛らしい。

それは良いとして、


「うん、とっても可愛いね。でもせっかく可愛くて新しい弁当箱なら自分で使いたかったんじゃないの?」

「良いんです、この弁当箱は紗希先輩に使ってもらうためにあるんです!」


まぁ姫乃ちゃんが気にしてないならこれ以上言うこともないか。


「ありがとうね。自分では買わないけど結構可愛いものは好きなんだ。あっそれと、弁当箱代は材料代を渡すときに一緒に払わせてもらうからね」

「もぅ、私は気にしないのに」

「だ~め、私が気にするの」


弁当を作ってもらうときにお金はどうするか話したけど、姫乃ちゃんはいらないと言ったが流石に悪い。材料費の半分を、1ヶ月分まとめて払うことで落ち着いた。


「それより早く食べよ?いつも姫乃ちゃんのお弁当が美味しそうだったから、今すっごく楽しみなんだ」

「そう言ってもらえるととっても嬉しいですけど、あんまり期待されすぎても辛いかも…本当にいつも通りのお弁当ですよ?」

「そのいつも通りが美味しそうなんだよ。どうする隣に座って一緒に食べる?それとも自分の席で食べる?」


ちょっと迷ってから姫乃ちゃんは私の隣に椅子を持ってきた。


「せっかくなんで一緒に食べても良いですか?」

「うん、もちろん良いよ。それに食べた時の感想もすぐに言えるしね」

「う~なんだか嬉しいような怖いような気持ちです」


そんなに不安になる必要なんて全然ないのに。

昨日の料理を見たら絶対に美味しいのは保証されているだろうに。


そうして弁当箱の蓋を開けると、そこには赤緑黄の色とりどりの料理がこの小さなお弁当箱の中に広がっていた。


「すごい美味しそう!」


語彙力のなさが露呈してしまったが、お弁当でこんなに美味しそうと思ったことはこれまでない。

だから、この感想も仕方がないのだ。

何から食べるか迷うけど、しっとりと輝いている君に決めた!


「う~ん卵焼き美味しい~。この出し汁が中からじゅわっと出てくるのが本当に良い!」


というか、こんなのよく作れるな。

私が作ったことがある卵焼きは、硬いし結構焦げ目がついちゃうけど、この卵焼きはそんな焦げ目はほとんどない。

むしろ輝いているまである。


「そう言ってもらえると嬉しいです!他の料理は作り置きのものを詰めただけなんです。でも、卵焼きだけは紗希先輩に美味しいって言ってもらえるように今日の朝に張り切って作ったんです。だから1番に卵焼きを食べてくれて、しかも美味しいって言われると張り切った甲斐がありました!」


そう言って両手を小さく握ってガッツポーズする姫乃ちゃん。

可愛い…

そんな姫乃ちゃんを見て、卵焼きを1番に選んだ自分を褒める。


そのあとは、一緒に弁当を食べてどれもこれも全部美味しい!って我ながら珍しく満面の笑顔で姫乃ちゃんに伝えさせていただいた。

普段は可愛らしい後輩で妹みたいだと思ってたけど、私が美味しそうに弁当を食べてるのを見つめる姫乃ちゃんはなんだか慈愛に満ちた顔をしていた。

やめて頂きたい、いつもとは違う顔に思わず目を逸らしてしまう。

…そんな顔で見られたことがないからちょっと照れてしまいます。


お昼ご飯を食べ終わった後は、昨日話していた姫乃ちゃん主催の料理教室の話をした。

私たちの会社では水曜日がノー残業デーとなっている。

だから残業がなかったら水曜日、もう1日は土曜日に料理教室を行うことが決まった。


私は、土日の過ごし方が家でまったりしているだけなのでいいが、姫乃ちゃんをわざわざ土曜日拘束してしまって良いのだろうかと思い聞いてみた。


「むしろ紗希先輩を独り占めできるので問題なしです」


予想外の返答だった。

まぁ土曜日にも料理教室を行うことに対して問題がなさそうだから良しとした。


その後は私に合わせてまったりしながら、ちょいちょい話をしながら昼休憩を過ごした。



あいにくその日は遅くまでの残業が確定しそうだったので、姫乃ちゃんの手料理は遠慮しておいた。

でもそれを伝えた時の姫乃ちゃんはとても不服そうで、


「何時になっても料理を作りに行くのに!」


そう言ってはくれたけど、流石に可愛いい女の子に遅い時間に料理を作りにきてもらうのは心配なので、


「私も本音で言うなら姫乃ちゃんの料理が食べたいよ。だけど、それ以上に姫乃ちゃんの事が心配だから今日は来ないで?」


そう言うと姫乃ちゃんは素直に「分かりました」って言ってくれた。

最初は不服そうだったのに、最後はちょっと嬉しそうな姫乃ちゃんがちょろすぎて少し心配になった。


その後は、不服にも予定通り遅くまで残業をして、結局コンビニ弁当を買って帰った。

あぁ~姫乃ちゃんの料理が恋しいよ。


やっぱり人間、一度美味しいものを味合うとこれまでのものがダメに感じるね。

今までは必要だからと我慢できていたコンビニ弁当だけど、体が拒絶しているのを感じる。


やっぱり姫乃ちゃんに来てもらうべきだったか?

でもなぁ、遅い時間に出歩くのも不安だしな。

いっそ合鍵でも渡してしまおうか?家に帰るときは私が送ったらいいし。


…流石に合鍵は引かれるかな?やっぱりやめておこう。


明日の姫乃ちゃん主催の料理教室が楽しみだな。

私が作った料理だとしても先生が姫乃ちゃんならきっと美味しいはず!


そんなことを考えながら、その日はすっかり味けなく感じてしまったコンビニ弁当を、ビールで流し込むように食べて寝た。

明日の料理教室を楽しみにしながら。


**************

作者より みんなへ

いつも応援してくれてありがとう。

執筆中に挫けそうになるとき

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