第33話…悪役令嬢注意報②

 有無を言わさぬブランシュ嬢に連行されて、やってきたのは王宮内の一室。なんでも彼女が第三王子の婚約者になったときに与えられた部屋だそうだ。王子の婚約者としてお茶会したり、公務の手伝いをする為の部屋だったらしいが、俺様王子とは不仲だった為殆ど使用していなかった様だ。……このきらびやかなお部屋は、畑仕事帰りの農婦には敷居が高すぎるんですが……


「ありがとう、下がっていいわ」


「!?しかし、お嬢様」


「わたくしがいいと、言っているの。下がりなさい」


「……畏まりました。隣室に控えておりますのでご用の際はお呼びくださいませ」


 いやああああ。侍女さん下がらせて何話そうって言うのおおおお。


 どきどきしながらお茶を飲む。くそう、いい茶葉使ってるなあ。まあ、私はどちらかというと珈琲派だけど。


「さて。改めて自己紹介するわ。ご存知・・・だと思うけど、私の名前はブランシュ・フュルストよ。よろしくね」


「はぁ……よ、よろしくお願いいたします」


 一体何をよろしくすりゃいいんだかわかんないけど、よろしくされたら反射的に返してしまう、生まれ変わっても染み付いてる社畜精神。にしても、ご存知って私、侯爵令嬢なんぞ存じ上げませんが。


 そんな事を思ったのが顔に出たのか、ブランシュ嬢は私を見てニヤリ、と笑った。ニヤリ?


「『世界樹の下であなたに愛を』」


「!?」


「やっぱりねぇ。貴女も転生者なんだー」


 先程までの澄ました侯爵令嬢の顔から一転、砕けた口調でブランシュ嬢が話しかけてくる。え、転生者って他にも居るもんなの?


「ランクス殿下に『水魔法で畑に水撒いてる農婦』の話聞いたとき、なんとなくそうなんじゃないかなと思ったんだー。だって、この世界にそんな事してる人居なさそうなんだもん。それに宰相閣下に『最初は緑だけど熟すと赤くなる酸っぱい実がなる植物』とか『黄色い粒々で並んで実が付いて生る細長い植物』とか探してるって言うじゃない。それってたぶんトマトとトウモロコシよね?」


 うぐ。バレた原因が南米原産的農産物とは……まあこの世界のこの時代にあるかどうかもわからない植物探してる、っていったら怪しまれてもしょうがないか。


「私もねー。まさかゲームの悪役令嬢に生まれ変わるなんてどうしてよ!?と思ったけど、あのお花畑ビッチのおかげで助かったわ。だってせっかく貴族の令嬢になったのに追放とかヤだもの」


 完全に侯爵令嬢の仮面を取り去ったブランシュ嬢は、紅茶片手に女子会のノリで笑う。マナー何処いった。


「私は学校行く途中で事故に遭って死んじゃったっぽいんだけど、貴女は?」


 えーと、話していいもんか……いや、チートの事もあるし言わない方がいいよね。


 私も会社に行く途中で事故に遭った(嘘じゃないし)と言ったら、やっぱりねーうんうんと勝手に納得してくれた。


「でね、でね。今日呼んだのはどうしてもお願いしたいことがあったの!」


「え、な、なんでしょー……?」


 セカシタの話したりして、ある程度打ち解けた段階で、ブランシュ様は突然立ち上がってテーブルから身を乗り出した。なにを言われるんだか皆目検討つかない。


「私ね!ごはんがたべたいの!!」

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