第26話…キラキラ君は怯える

 何処となくたどたどしい話し方は、幽閉によって弟以外との交流が少なかった弊害の様だ。あ。そういえば、その弟のネクラ君て聖女様と一緒に捕まって戻ってきてるんだっけ?病死予定コース…う。今この話題は止めよう。


 思い出した事を頭から取り敢えず追いやって、ポケットから汗拭き用に入れていた布を取り出す。あっ、別に汗拭いて臭くなってる訳じゃないわよ?朝農作業した時に使ってたのとは別の綺麗なやつだから。


 胴に巻かれていた布の結び目を解き、猫から外す。そのままその布を水魔法で軽く湿らせて身体についていた血を拭うと、見た目は怪我の痕がない綺麗な状態に戻った。そして、私が出した布でそっと猫を包むようにくるむ。


「みず……?」


 キラキラ君が、不思議そうに呟く。まあ、さっき回復魔法使ったしね。


「えーと、内緒。ないしょよ?」


 私が口に人差し指を当てて言うと、私と猫を交互に見比べた後、キラキラ君はまたこくん、と頷いた。うーん、やっぱり五、六歳の子供と話してる気分だわ。


「一体何をしてるんだい君は……」


「げ」


「げ、とは酷いな。一応僕はこの国の王子だよ?」


 私が非常にほのぼのとした気分で癒されていたのに、後ろからかけられた声にげんなりしてしまった。確かに王子様ですけどねえ。あんなに魔法バカなところを見せられちゃ、根が正直な私としてはついていけないわけですよ。それにしても自分でも王子に『一応』つけるのね……


 その時私の服をギュッと掴む感覚に驚く。どうしたのかと思いきやキラキラ君が泣きそうな顔で、殿下から私を盾にして一生懸命隠れてた。


「え、えーと……?」


「あー。まあしょうがないね。僕のこの顔が怖いんだろう。弟と似ているからね」


 ? ランクス殿下が俺様王子と似ていて、なんでキラキラ君が怖がるんだ?


「聖女が無理矢理シャルムを連れていったからだろう。この子…カシェは弟と離れたくなかったらしく聖女の所へ言ったんだが、うちの愚弟が追い払った様だ」


 どうやら幽閉されていた時、ネクラ君は自分ばかりが虐待されている事に強い怒りを覚えていたらしく、救出後は兄のキラキラ君とは疎遠になっていたようだ。まあ、同じ兄弟なのに属性が違うってだけで兄貴はほぼ虐待されずのほほんとしてりゃ怒りも沸くかもしれない。絆なんて綺麗事言うつもりもないし。で、聖女の取り巻きになってるって聞いて会いに行ったら、これ以上取り巻きが増えるのを懸念した俺様王子がけんもほろろに追っ払ったんだそうだ。兄は優遇されてた、っていうのにも悪感情あったのかもしれない。


「えーと、怖くないよー。この人はちょっと魔法バカなだけの人畜無害な王子様だよー」


「…君はそんな風に思ってたのか」

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