第9話…一度目の転機②

 転機は馬車でやって来た。


「ここに非常に美味な作物を作る者がいると聞いたが」


 王都からやって来たお役人は、突然やって来てへこへこする村長に、そう言ったそうだ。


 私は自分に任された畑でのんびりと野菜を育てていたのだが、これこそ私の望んだ願い!自重?なにそれ美味しくない、と精根込めまくったばかりに私が関わった作物は非常に出来が良かったらしい。家族も絶賛してくれ、出荷先の王都でもたいそう評判良かったのだそうだ。調子に乗った私は水以外の魔法もこっそり駆使して土壌改良やら品種改良やらいそしんでいた。どうもその結果、王城の食料を管轄するお役人の目に止まったらしい。


「はぁっ!?ヴェルティアを王室専用畑の農婦に!?」


 とんでもないことになったと、村は大騒ぎになった。なんでも王様の口に入る食べ物を作る為の専用の畑があって、私にそこで作物を作れと言う。ふーん、王様ともなると専用の畑とかあるのねー、とその時はのんびり構えていた私は、断る気満々だった。だって面倒臭いもん。


 それなのに私が今、王城外の農地で農婦してるのは、簡単に言うなら家族…いや、村に売られたからだ。売られた、といってもまあそこまで悲愴な感じではないけど、こんな田舎の村で暮らすよりも王都で仕事すりゃもっと贅沢できるよ!と押しきられた。


 別に贅沢したい訳じゃないし、どちらかといえば私は定年退職したサラリーマンが都会に疲れて田舎暮らしをする感覚なのだ。その辺りは分かって貰えないだろう。行きたくないと散々駄々を捏ねたが、聞き入れて貰えなかった。


 仕方ないな、とは思う。私は知っている。支度金として結構な額のお金をお役人が置いてったのを。豊かとは言え田舎だ。全体的にここ数年少しずつだが、気候が良くない日が多く、作物の生育が段々と悪くなっている気がする。いざというときの蓄えが欲しいのだろう。なので仕方がないとはわかっててもなんかちょっと悔しいので、贅沢してちょっとだけいい余所行きのワンピース仕立ててやったぜ!(小心者)


 渋々生まれて初めて屋根のある馬車に乗せられてドナドナされた私は、これまた初めて王都に足を踏み入れた。っていうか踏み入れたのは車輪だけど。


「……人……思ったより少ないな」


 窓から歩く人を見てボソッと呟いたら、連れてき役人が、なんだコイツ?田舎者の癖に、みたいな顔で見てくる。自分でも言ってからあれ?と思ったけど、あとで良く考えたら、私は都会と聞いて前世のあの戦場(新宿とか渋谷とか)と比較していたのかも知れない。そりゃ少ないわ。


 大通りらしき舗装された道を、粛々と進んだ馬車が止まり、降りた目の前の景色には流石に田舎のお上りさんよろしく声を上げてしまった。


「わーーーーっ!宮殿だ!!」


 お役人が、何言ってんのコイツ?当たり前だろ、みたいな顔で見てくる。しょうがないじゃん。ヨーロッパ的な宮殿なんて海外旅行したこと無いから写真でしか見たこと無かったんだもん。見たことあるのは精々が銭の国の城くらいだわ。

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