第10話…一度目の転機③
当たり前だけど、正面では無く横の通用門ぽい小さい門から敷地へと入り、建物の中へと進む。流石に通用門付近には何もなかったけど、進むにつれて高そーな壺とか高そーな絵とか飾ってあって落ち着かない。連れてきてくれたお役人さんが、とある部屋のドアをノックした頃には、気分は「おうちにかえりたいー」だ。
「ふむ。君があの作物を作った者か」
中には連れてきてくれたお役人よりも高そうな服を着たお役人が座っていた。まあ上司なんだろう。
この国の王様は贅沢にもグルメで、常に美味しいものを求めているらしい。野菜は常に新鮮なものを食べたい、という理由だけで、王宮のすぐ横に畑を作っちゃうくらいには、頭おかしい人の様だ。で、この食料担当の偉いさん(後で聞いたら大臣さんだった)は、目新しいもの、より美味しいものを探させられているらしい。その一環で市場で非常に評判の良かった私の作物に目を付けたんだそうだ。
一通り私の仕事と待遇の説明を受ける。私に求められたのは、王族専用畑の世話。今までは畑全部から採れた作物の中から、良さげなのを選んで提供していたそうだが、私の作物なら専用にしても大丈夫だろう、とのお墨付きを貰った。いや、お墨付きをくれるのはいいんだけど、口に合わない、死刑じゃーー、とかなったらヤダよ?
そう思ったけど、美味しくないと機嫌が悪くなる事はあるけど、流石にすぐ死刑にはならないそうだ。一安心。そもそもどんなに美味しい食材だって、最終的には調理によるしね。あ、私は暗黒物質は作成したこと無いよ?
ちなみに個人的にキュウリの1番美味しい食べ方は、早朝、日が昇る前にもいだキュウリを氷水でちょっとだけ冷やして、塩をパパッと振って丸齧りだと思う。
住まいは王宮の外畑近くに農夫達専用の寮があるので、そこで一人暮らしの様だ。寮母さんが居るので上げ膳据え膳。王都だから家賃高いかなと思ったけど、国の直営農園だからか補助あるっぽい?お給料から寮費を払っても仕送りが出来そうだ。
仕事も農作物の管理だから、時間が決まってる訳じゃ無いし、作物がきちんと育ってさえいればいいからずっと農作業してなきゃいけないわけでもない。待遇面でも問題ない。お給料も結構貰える。天国じゃーん。
実家であれ程行きたくないと駄々を捏ねた事などすっかり忘れ、上機嫌で契約書にサインをした。こっちで生まれて初めてのサインでちょっと緊張したけど。何せ村じゃ教会の司祭様が子供達にちょこっと名前程度の字と数字の読み書きを教えてくれる程度だったので。お役人のなんだコイツ?平民の癖に大層な名前しやがって的な視線は勿論スルーした。
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