第32話…悪役令嬢注意報①

 どうやら出立は一週間後に決まったそうだ。身辺整理しておくんだよ、と言われてなんでやねん!と突っ込んだのは言うまでもない。縁起でもない。


 なーんだこんなに早く帰ってきたの?って顔してる寮母さんに心の中で中指立てて部屋に戻り、眠りについた翌日。


 ……この世界の神様やっぱりキライ。


 朝の農作業を終えて、片付けをしながら今日は旅に必要そうな物を買いに行こうかな、支度金いっぱい貰ったし、と計画を立てていると、何やら農園の入り口が騒がしいのに気付いた。


 なんだ?と思いそちらを見ると……場違いにも程がある清楚なドレス姿の女性が一人。お付きの侍女?さんに日傘を差してもらい、後ろに護衛っぽい人を引き連れている。明らかに浮いている。ざわざわする農夫達には目もくれず、キョロキョロと農園を見渡した令嬢は、ある一点……ぶっちゃけて言えば私の方を見てこちらに向かって来た。


 ……に、逃げていいかな……?


 畑なんて、どう考えても貴族のご令嬢がやって来る場所じゃない。それなのにわざわざ来るってことはろくな用件じゃないだろう。


「ごきげんよう。あなたがランクス殿下の仰ってた農婦かしら?」


 あの魔法バカ、一体なんの話をしてんのよ……なんだか最近どっと疲れる展開多いなあ。


「えーと、確かに私は農婦ですが、殿下が仰った農婦かどうかは存じ上げません」


 ここまで答えてようやく私は顔をあげ、ご令嬢の顔を良く良く見て、一瞬目眩がした。


 だ、第三弾~~!?


 ドレスの裾が土で汚れるにも関わらず、畑の中までやって来たご令嬢は、パッケージの表にはついていないが、裏側に誰よりもデカデカと描かれていた悪役令嬢様その人だった。


 ブランシュ・フュルスト侯爵令嬢。メインヒーローである俺様王子の婚約者で、いわゆる悪役令嬢だ。ゲームでは断罪後王都から追放され、末期まつごが一言で終わっちゃう不憫キャラ。確か『いくらなんでも酷すぎるんじゃね?』というSNSの声で、アナザーの外伝が出たんじゃなかったかな。ていうか、とうとう似てるとかそっくりじゃなく、本人ご登場!してしまった。いや、後ろの侍女さんや。私が畑の中に居るのが悪いみたいに睨み付けないで……


「ブルネットの髪にヘーゼルの瞳の若い女性、と殿下にお聞きしたわ。他にも居らっしゃるとは思うけれど、私のカンが貴女だと告げているの。わたくしのお話聞いて下さいますわよね?」


 ニコリ、と笑みを浮かべ、ブランシュ嬢が言う。だけどその目は全く笑ってない。こ、怖い……


「聞いて下さいま・す・わ・よ・ね?」


「は、はいぃぃぃ」


 断る術は私にはなかった……

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